多大な費用が生じる「証人尋問の手続」だが・・・
前回の続きである。
(3) 事実証人
証人尋問の手続には、証人の陳述書の作成及び反対尋問を含む期日のための証人の準備という多大な費用が生じる。証人尋問手続は、大陸法のシステムと比べてコモンローのシステムでより長くかかることが多い。コモンローの慣行に親和性のある弁護士は、自国内での裁判所での経験に依拠する可能性があり、その結果、費用がかさむことがある。
証人を主要な問題点で証言が必要とされる者に限ることによって、費用を削減できる。期日については、証人の陳述書で直接の審理を代替すると定めることなどによっても、費用を削減できる。また、同一の主題につき複数の証人を出席させることを防ぐことでも、証人尋問にかかる費用を削減できる。
(4) 鑑定証人
鑑定証人は、事実証人よりさらに多大な費用がかかることもしばしばである。鑑定報告書の作成や、鑑定人を、反対尋問を含む尋問に備えさせるためには、多大な時間及び費用を費やすからである。
鑑定による証拠は、主要な技術上の問題につき仲裁廷で明らかにする必要がある場合にのみ利用すべきである。また、当事者ではなく、仲裁廷が技術上の問題につき証言する鑑定人を任命する旨を合意すれば、費用を削減できる。
効率的な事案管理の推奨を意図する条項を加えたICC
(5) 事案管理
ここまで主に当事者側の事情について述べてきたが、仲裁廷側の事情も、費用及び仲裁手続の期間に大きな影響を及ぼすことがある。ICCは、2012年に公表された仲裁規則の改正の際にもかかる要素を認識しており、効率的な事案管理の推奨を意図する条項を加えている。
仲裁規則22(1)条では、仲裁人及び当事者が、「紛争の複雑さおよび紛争額を考慮した上で、迅速かつ効率的な方法で仲裁が遂行されるようあらゆる努力を行うものとする」と定めている。かかる努力の一端として、24(1)条では仲裁廷は、準備会合を開催することを求めている。かかる会合の目的は、紛争を可能な限り効率的に解決できるようなタイムテーブルと具体的な手続について議論し、合意することである。
ICC規則の付属規程(IV)では、手続を迅速化し、費用を管理するために仲裁廷が一般的に用いる手法を列挙し、さらなる指針を提供している。その中に以下のものがある。
● 手続を段階に分けること
● 効率的で簡素化された開示手続の導入(IBA国際仲裁証拠調べ規則で奨励)
● 提出文書並びに証拠の数量を制限
● 紛争の和解を推進
また、事案管理の効率性は、仲裁人が必ず出席できるようにすることで改善できる。予定が重なる事件を組み込む可能性を減らすために、仲裁人を任命する前に、審理や裁定が下されると予定されている期間に、利用可能(available)であるか具体的な情報を開示するよう仲裁人に求めることも検討できよう。
(6) 緊急仲裁人手続
仲裁廷が構成される前に、一方の当事者が緊急の暫定的措置を求めることがある。仲裁規則に該当する定めがある場合を除き、当事者がこうした救済策を求められるのは特定の管轄裁判所だけであり、費用や手続の長さに悪影響が及ぶ可能性がある。
ICC規則では、手続を効率化するために緊急仲裁人手続について定めている。ストックホルム商業会議所仲裁協会(SCC)、SIAC、ICDR及びスイス国際仲裁規則にも、緊急仲裁人について同様の定めがある。
ICC規則29(1)条では、緊急仲裁人は当事者が「仲裁廷の構成を待つことができない、暫定的措置又は保全措置を必要とする」場合にのみ利用できると定めている。
緊急仲裁人手続の申請者は10日以内に仲裁の申請を行わなければならない。ICCの国際仲裁裁判所所長は、原則として申請書を受理してから2日以内に緊急仲裁人を任命する。緊急仲裁人は、原則として申請が行われてから2日以内に手続のタイムテーブルを設定し、15日以内に裁定を下さなければならない(仲裁裁判所所長が期間を延長した場合を除く)。
この話は次回に続く。