発表当時、世間からブーイングを浴びた「印象派」
現在、19世紀の印象派の絵画を入手しようとしても、庶民には手が出ないほどの高値がついています。人気があるうえ、当時の画家は全員亡くなっていて、作品の新たな供給がないからです。ところが、発表当時、印象派の絵画は世間からブーイングを浴びました。それらは長らく「売れない絵」の代表だったのです。そのため価格も、現在から考えれば驚くほど安い状態が続きました。
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いうまでもなく、価格は人気のバロメーターです。たとえば、前述した巨匠たちの作品はブランド化しているため、たいていの場合、高値がつくと思われています。しかし、実際は同じ画家でも、作品によって価格にけっこうな差がつきます。
たとえばピカソの場合は、その作品数が膨大です。特に版画のように同じ絵柄が複数存在するものは、比較的手頃な価格で手に入れることができます。また、晩年の作品はあまり人気がありませんから、全盛期の作品に比べれば入手が容易です。
藤田嗣治なども、一般に人気があるのは若い頃の乳白色の裸婦や、晩年に数多く描いた子どもや女性をモチーフにした油彩ですが、ここ数年は売り物が少なくなり価格が高騰しています。ところが、藤田がパリに来て後、乳白色の裸婦を発表するまでの作風は一般的にはなじみが薄く、一般に知られている藤田のイメージとはかけ離れているため、比較的手頃な価格で手に入れることができます。
同じ作家でも、モチーフや制作時期により価格は上下
私たちは、たとえばピカソならピカソの作品がすべて同じようなものだと思ってしまいがちですが、同じ作家でも、作品の種類や制作年代によって価格はまちまちです。一人の画家の低迷期から絶頂期まで―絵画の価格を見れば、その人生の起伏を如実に読み解くことができます。ちなみに、オークション・レコードとなって、何十億円もの価格がつくのは、たいてい誰が見ても素晴らしいと感じる、その作家の代表作です。
しかし、ちょっと格の落ちる作品となると、一桁くらいは価格が下がってしまいます。誰もが知っている代表作には多くの人が関心を持ちますが、そうでない作品は本当に好きな人しか注目しないからです。逆に言えば買いやすい作品になります。それにしても同じ画家の同じ大きさの作品でも、その制作時期やモチーフによって価格が大きく異なってしまうのは、ある意味では残酷なことです。
たとえばイタリアの画家キリコは、90年の生涯を通じて数多くの絵を描きましたが、人気があるのは彼が20代の頃に描いていた、ちょっと哲学的なシュルレアリスムの絵画です。それ以降もさまざまな冒険をしているのですが、どうしても20代の頃のような人気を取り戻せないとわかったキリコは、そのうちに自ら当時の絵を模倣して描くようになりました。それだけならまだしも、新しく描いた絵にも当時の制作年を偽ってサインするようになったために、自ら贋作を作ったと批判されています。
あるいはドイツの画家キルヒナーは、やはり20代の頃の表現主義の絵が高く評価されていますが、後になって当時の絵に手を加えてしまったために、それらの作品の価値が下がってしまいました。
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このように、同じ画家の作品でも、さまざまな理由によって価格は上下します。筆者著書『「値段」で読み解く魅惑のフランス近代絵画 』では、画商としての私の経験から、さまざまな画家たちの作品を、価格と作風の観点から解説しています。そこではまず、古今東西のオークションの記録から、その画家のオークション・レコードを紹介し、一方で、その他の作品がどのような価格で取引されているかを見ています。