今回は、「あおあざ【青痣】」を解説します。※本連載は、元小学館辞典編集部編集長で、辞書編集者として多数の辞書作りに携わってきた神永曉氏の著書、『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、変化し続ける「ことばの深さ」をお伝えします。

打撲の跡の呼び方で出身地がわかる!?

あおあざ【青痣】〔名〕

 

打撲の跡を「あおなじみ」と言うのは……

 

「方言チャート」というサイトをご存じだろうか。チャート形式で画面に表示される方言を、使う使わないと答えていくうちに、出身県が当たるというものである。東京女子大学教授の篠崎晃一氏とゼミ生が、篠崎氏の指導のもとに各地の方言のデータを集めて、辞書検索サイト「ジャパンナレッジ」の協力で作成したもので、インターネットでもかなり評判になった。

 

この「方言チャート」を千葉県出身の私がやってみると、「あおなじみ」という語がキーワードとなって、千葉県に突入することがわかる。ところが私は、「あおなじみ」という語を使ったことがないのである。ただ、亡父が使っていたので意味は知っている。外傷により皮膚の内部が出血して青黒く変色したその跡をいうのである。父は現在の千葉県印西市(いんざいし)の出身である。印西市は千葉県北部の下総台地に位置し、利根川を挟んで対岸は茨城県である。

 

「あおなじみ」は、どうやら、茨城県と千葉県北部に分布している方言らしい。ただ、『日本方言大辞典』(小学館)によると、千葉県の南東部に位置する夷隅郡(いすみぐん)でも使われているという報告がある。同書によれば夷隅郡では「なじみ」とも言うらしい。

 

打撲の跡の標準語は「あざ」だが、生まれつき体の一部の色が変わっていることも「あざ」と言うのでややこしい。ただし、打撲によるものと先天的なものとの語形(つまり「あざ」)を区別していないのは主に東京などだけで、地方では両者を区別している方が多いという。打撲の跡を「あおなじみ」と言う地域も、先天的なものは「あざ」である。

『日本言語地図』に見られる「あざになる」の語形分布

50年ほど前の資料だが、国立国語研究所が全国の方言を調査した『日本言語地図』(1966~74年)には、打撲の跡の「あざ」の地図はないのだが、「あざになる」で調査した地図がある。それによると、「あざになる」と言っている地域は、東京や埼玉など比較的限られた地域で、岩手、宮城と熊本、宮崎、福岡の「くろじ(に)なる」や、広島、徳島、山梨の「しにいる」「しみいる」、秋田県南部の「うるむ」などさまざまな語形がある。

 

[図表]

出典:篠崎晃一+ 毎日新聞社『出身地がわかる方言』
出典:篠崎晃一+ 毎日新聞社『出身地がわかる方言』

 

面白いことに、この地図を見ると「くろ〜」という語形は数多く見られるのだが、「あお〜」という語形がない。茨城県南部や千葉県北部も言語地図ではなんと「くろなじみになる」「なじみできる」なのである。だとすると「あおなじみ」はどこからきたのであろうか。

 

最近急激に勢力を伸ばしつつある「あおたん」は、北海道生まれの新しい方言だと言われているが、私の父は間違いなく「あおなじみ」と言っていた。だとすると、「あおなじみ」は決して新しい語ではないであろうし、「あおたん」の影響もないと考えられる。

 

打撲の跡の「あざ」は、「あお(青)あざ」とも「くろ(黒)あざ」とも言うことがあるが、「黒」派の勢力が衰え「青」派に取って代わられたということなのであろうか。

 

□方言・俗語

 

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さらに悩ましい国語辞典

さらに悩ましい国語辞典

神永 曉

時事通信出版局

朝日、読売、クロワッサン、各地方紙が絶賛! 新聞各紙コラムに引用された「悩ましい国語辞典」(5刷)の第2弾! 日本最大の辞書「日本国語大辞典」編集者はまだまだ悩んでいる! 言葉の謎はさらに深まる! そんたく…

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