今回は、エネルギー講座の第1回目の概要を見ていきます。※本連載は、元県立浦和高等学校主幹教諭で、現在は埼玉県庁教育局の高校教育指導課で指導主事を務める岡田直人氏による著書、『名門・県立浦和高校の白熱エネルギー講座』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、名門「県立浦和高校」の生徒による、日本の電力問題へのアクティブ・ラーニングの実践について見ていきます。

多様性に富んだ生徒たちが集結

〈第1回目〉新聞社説読み比べ(2015年5月7日)

――メディアは「高浜原発再稼働差し止め」をどう報じたか

 

10名の生徒と3名の教師による講座「徹底研究! 日本の電力問題」がいよいよスタートした。

 

2年生10名の顔ぶれは、文系クラスから6名、理系クラスから4名で、希望する進路は、法学部や経済学部志望の生徒もいれば、工学部、理学部、医学部を目指す生徒もおり、まさに十人十色である。

 

バスケットボールや陸上競技、柔道、山岳、地学など、所属する部活動も多彩で、10名といえどもこれだけ多様性に富んだ生徒たちが「電力問題」という共通の興味関心のもとに集結したことが、まずもってうれしい誤算であった。

意見の異なる他者への敬意、妥協点を見出す力を学ぶ

さて、初顔合わせとなる第1回目の講座では、まず、「浦高生が電力問題について考え、発信する意義とは何か」について生徒たちに投げかけた。以下は、その際に筆者が事前に作成したメモである。

 

〜〜〜

 

「電力の消費なしに、現代の世界中の人々の生活は成り立たない。一方で、福島第一原発事故を契機に、電力への依存の仕方がこれまでどおりで果たしてよいのかどうか、日本のみならず世界の人々が考え直し始めている。

 

しかし、今後数十年の電力の供給・消費のあり方に直接的な影響を与えるのは、まさに君たちの世代である。とりわけ、将来の日本や世界を支えるリーダーたらんとする浦高生には、この問題について真剣に議論し、将来にわたって考え続ける必要があるのではないか。

 

政府は、2030年の電源構成について議論し、今夏(2015年)にもその案を決定するが、2030年に日本社会の中心を構成するのは、君たちである。日本に50基以上ある原発を今後どうするのか、再生可能エネルギーをどうやって普及させていくのか、そもそもこれだけ電力消費に頼りきった生活を送っていてよいのか

 

……。電力問題と一口に言っても、考えるべき領域は、科学、歴史、哲学など、相当な広範囲に及ぶ。

 

1年間この講座で探究を続けても、答えは容易に見つからないだろう。しかし、君たちが、この問題について考えること自体に大きな意味があると確信している。長瀨先生も私(岡田)も、この講座を立ち上げてはみたものの、着地点はまったく見い出せていない。

 

ただ、それだからこそ、これから君たちがどんな変容を遂げるのか、あるいは我々教師自身にもどのような気づきが訪れるのか、今から楽しみで仕方がない。

 

この知的探究を通じて、大人世代に対して君たち世代が「3・11」以後の電力にかかわる問題について、どのように考えているのか、発信する手伝いができればと思っている。この10人の中には、例えば、原発については、再稼働に賛成の人もいれば、反対の人もいるだろう。

 

電力の問題でも、あるいは世界を取り巻く政治や環境にまつわるさまざまな問題でも、大切なのは、理を尽くした冷静な議論を通して、互いの意見を尊重することである。今日から始まるこの講座を通して、答えなき問いに対峙するとき、他者の意見に真摯に耳を傾けること、意見が異なること自体を受け入れること、そして、何より、それらの違いをどうしたら乗り越えることができるかを考えてほしい」

 

〜〜〜

 

生徒たちは、筆者のこの話に真剣に耳を傾けてくれた。昨今の教育現場では、生徒の発信力を高める取り組みが重視されている。各教科では、プレゼンテーションやスピーチなどの活動が積極的に取り入れられ、自分の意見を、説得力をもって伝える力を育てようとしている。

 

グローバル化社会にあって、それはもちろん大切なことであるが、その前提となるのは、意見の異なる他者への敬意と、その相違を乗り越えて妥協点を見出す力ではないだろうか。

 

自説によって相手を説き伏せるだけでは、利害の複雑化する社会において共生を図ることはできない。そうした観点からも、この「電力問題」は考える力、発信する力、受信する力など、探究心とコミュニケーション能力を育てる格好の「教材」ともいえる。

 

この話は次回に続く。

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