電力問題の「議論の場」を用意してこなかった教育現場
電力・エネルギー問題、とりわけ日本の電力供給を将来的にどうするのかという問いに、浦高の生徒たちと真剣に、とことん向き合って議論してみたい――。これが2011年3月の福島第一原発の事故以来、筆者がずっと胸に秘めてきた思いであった。
筆者が9年間勤務した浦高は、東京大学をはじめとする難関大学進学者が多いこと(はじめに「浦高Data」のとおり)から、「公立の星」などとメディアで取り上げられることがあるが、進学指導のみに特化した高校ではもちろんない。
そもそも浦高は、その創立以来120年以上にわたり日本と世界を支える骨太なリーダーを各界に輩出し続けてきた、文武両道を地でいく高校である。
日本人初の国際宇宙ステーション(ISS)船長を務めた宇宙飛行士の若田光一氏、天皇陛下の心臓バイパス手術を成功させ「神の手」と称される心臓外科医の天野篤氏など、各界のパイオニアを数多く輩出してきた。現在の浦高生も、将来この国の舵取りを担うべく各分野で活躍してくれることであろう。
そうした生徒たちを前に、筆者ら教師は、福島第一原発事故や、その後の電力問題について、ともに真剣に議論する場を用意してきたであろうか。残念ながら、浦高に限らず、全国の教育現場において、事故から6年余り経った現在でも、そうした取り組みは十分といえないであろう。
若い世代が将来立ち向かわざるを得ない「電力問題」
エネルギー教育の重要性は、昨今にわかに指摘されるようになってきたが、では実際、何を、どのように扱えばよいのか、明確な指針があるわけではなく、一教師、一教科の手に余る。
しかし、一方において、これから日本を支える若い世代は、この先数十年にわたって、原発事故の処理や電力・エネルギー供給のあり方をめぐって、まさに答えのない問題に立ち向かわざるを得ない。
そのなかでも浦高生は、リーダーとして、その絶対解なき問いの最前線で、日本の針路を決めていく存在となるであろう。そうであるならば、彼らにとって、仲間や教師とともに、「日本の電力をどうするのか?」について徹底的に議論し、探究することは極めて意義のあることである。
このような信念から、一介の英語教師でしかない筆者が、日本の電力問題を探究する活動を2015年度2年生の「総合的な学習の時間」で立ち上げることにしたのだった。友人同士で表立って議論することは少ないが、原発や再生可能エネルギーについて関心のある生徒が少なからずいることは、日々生徒と接している中で筆者自身が感じていた。
また、2015年春は、夏の政府決定に向け、原発や再生可能エネルギーを含む電源構成比率である「2030年エネルギーミックス」について、経済産業省で議論が白熱している最中でもあった。2030年といえば、まさに浦高の生徒たちが社会の各方面でリーダーとして活躍しているであろう、近未来である。
今、浦高生が日本の電力問題をどう考え、将来に向けてどのような展望を持つかによって、日本の近い将来の電力・エネルギー政策の方向性が決まっていくかもしれない。そんな期待と責任の大きさを感じながら、講座「徹底研究! 日本の電力問題」をスタートさせた。