今回は、連帯納付義務について見ていきます。※本連載は、みどり総合法律事務所の所長・弁護士の関戸一考氏、同じく弁護士の関戸京子氏の共著、『新・税金裁判ものがたり』(メディアイランド)の中から一部を抜粋し、具体例を題材に、税金裁判の現状と課題を解説します。

相続税が支払えず、全額物納申請をした長男だが・・・

(1)相続税の連帯納付義務をめぐる問題について

 

それでは、遺産分割成立後に相続人の1人が物納を申請した場合を例として検討してみましょう。

 

<事案の概要>

 

父、母が相次いで死亡しました。財産は不動産を中心に10億円分あり、相続人は長男と次男と長女の3人でした。長男が5億円の不動産を相続し、次男と長女は約5億円の財産を分けました。次男と長女は相続税を完納しましたが、不動産を相続した長男は約3億円の税金が支払えず、全額物納申請をしました。ところが、いろいろな事情があってなかなか物納の許可が出ません。

 

<他の姉弟は何ができるか>

 

もし物納申請が認められなかったら、次男や長女など他の姉弟はどのような義務が発生するでしょうか。それまでの間、他の姉弟は何か方法を講じることができるでしょうか。

連帯納付義務とは?

<考え方の指針>

 

相続税法34条1項には、共同相続人は相続等により受けた財産(利益の価額)を限度として連帯して納付する義務があることが定められています。

 

(ア)相続税の連帯納付義務について

 

ここで、相続税の連帯納付義務について説明します。

 

相続税の連帯納付義務とは、被相続人から相続または遺贈によって財産を取得した者が、その相続・遺贈について受けた利益の価額に相当する金額を限度として連帯して納付の義務を負うというものです。

 

連帯納付義務者は自分の相続した分についてはきちんと相続税を納付していて相続税の支払いは終わったと考えているのに、別の相続人が支払いをしないため、突如として課税庁から督促の通知が来たりして、不払いを知らされるケースがほとんどです。連帯納付義務者にとっては、「不意打ちの未納税額の督促であり納得できない」と感じます。そのために、相続をめぐる実際の裁判例の中でも、連帯納付義務をめぐる判例はかなりあります。

相続で受けた利益価額の範囲内で、連帯納付義務が発生

(イ)本件の設例はどう考えるべきか

 

①まず物納申請が何らかの理由で認められなかった場合に、長男は認められなかった分について相続税本税及び延滞税(利子税)の支払義務を負います。他の姉弟は自分が相続により受けた利益の価額の範囲内で、長男の物納が認められなかった税額相当分について、連帯納付義務を負います。

 

②しかし、物納申請の結論が出るまでの間、他の相続人が特になし得る方法は相続税法にはありません。

 

ただし、平成24年に相続税法34条1項が改正され、相続人が申告し物納申請を行っているにもかかわらず長期間放置された物納許可の取消の事件のような場合(本書『新・税金裁判ものがたり』第6章参照)は、連帯納付義務は発生しない場合があることが新設されました(相続税法34条1項ただし書1号~3号)。この内容は後で説明します。

 

③連帯納付義務の恐ろしさは、主債務者である長男が物納申請を行ったり、あるいは延納を申請したり、さらには課税処分を争ったりしていた時に、突然、延滞税なども含めて連帯納付義務者に請求されることがあることです。そのため、連帯納付義務者まで巻き込んでの争いに発展してしまいます。

新・税金裁判ものがたり

新・税金裁判ものがたり

関戸 一考,関戸 京子

メディアイランド

相続税、贈与税、青色申告、認知症、連帯納付義務…税金裁判の専門家が納税者目線で解きほぐす。 弁護士・税理士・税金裁判に興味のある納税者必読!豊富な具体例を題材に、税金裁判の現状と課題を解説します。

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