前回は、売り手を守る「借地非訟」について説明しました。今回は、「立ち退き」問題の存在が不動産評価額に及ぼす影響を見ていきましょう。

既存の建物取り壊しの際に障害となる「入居者」の存在

借地上の建物のように、自分で所有している不動産を好きなように売却処分できないのは、厄介なものです。

 

同じような例として、テナントビルや賃貸住宅が挙げられます。土地は自分のもので、そこに立っている建物も自分のもの。ただ、建物を第三者に賃貸しているので、そこにはテナントや入居者が存在しているという例です。

 

この場合には、土地・建物が売り手自らのものですから、それらを誰に気兼ねすることなく売却することは可能です。テナントビルや賃貸住宅として利用している建物であれば毎月賃料収入を得られますから、収益不動産として投資家に売却する例も実際少なくありません。

 

そこで1億円投資しても年間600万円の賃料収入が得られるなら、表面利回りで6%を確保できます。投資家からすれば、そのままでは大した収益を生まない更地より、すでに一定の収益を生んでいる収益不動産に投資する方が合理的ですから、一定程度の利回りさえ見込めれば、そこに投資するはずです。

 

しかし、テナントビルや賃貸住宅で貸しに出している部分全てにテナントや入居者がいるとは限りません。満床・満室稼働していないなら、賃料収入に基づく収益性に期待をかけることはできないので、買い手は投資とは別の観点から購入を検討することになります。

 

例えば築年数の経過した中古の建物であれば、それを取り壊し、更地にして、そこに建物を建てた上で売却する、といった選択が考えられます。事業用地の仕入れという観点から、その中古の建物の購入を検討するわけです。

 

このように投資とは別の観点から購入を検討する場合、既存の建物は往々にして取り壊す前提です。

立ち退きの必要性は、不動産の評価額を押し下げる

そうなると、テナントや入居者の見え方は賃料を支払ってくれる収益性の源泉というありがたい存在から一気に邪魔者へと変わります。テナントや入居者がいたのでは、建物をすぐには解体できないからです。

 

ここで立ち退きの問題が起きてきます。そしてこの立ち退きの必要性は不動産のマイナス要素として、その評価額を押し下げます。

 

東京都世田谷区内の100坪近い一等地の例を紹介します。そこを自分で利用しようとするエンドユーザー相手であれば更地の坪単価で320万~330万円、そこを事業用地として仕入れようとする不動産のプロ相手であれば同じく270万円というのが相場観です。

 

ところが、売買仲介の相談を受けた不動産会社が示した価格は坪当たり160万円といいます。エンドユーザー相手の価格と比べると半分です。

 

この話は次回に続きます。

本連載は、2016年6月29日刊行の書籍『はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン

はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン

宮﨑 泰彦

幻冬舎メディアコンサルティング

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