前回は、相続税の課税で控除できる「葬式関連費用」について説明しました。今回は、子供や孫の教育費用は課税控除の対象となるのかを見ていきましょう。

教育費用も課税控除対象だが、お金の渡し方に注意

相子 親や祖父母が子供や孫の教育費用を負担している場合はどうなりますか?

 

北井 親や祖父母は扶養義務を負っているので、生活費の面倒を見たり教育費を出したりするのは当然の行為です。そのため、お金を渡していても生活費や教育費に使われたのなら課税されることはありません。

 

相子 なにか特別な注意点はありますか?

 

北井 お金が必要なタイミングごとに必要な分を渡すなど、社会常識に照らして不自然ではない渡し方をすることが求められます。大学4年分の教育費・生活費として1,000万円をポンと渡すようなやり方だと、税金が徴収される場合があります。また、用途も教育費、生活費に限られているので、子供や孫が教育・生活費用としてもらったお金を使うときには、なにに使ったのかがわかるように常に領収書を受け取ることも必要です。

 

相子 生前に一括で大金を渡すと課税されてしまうのでしょうか?

 

北井 相続とは別に生前に財産の一部などを分け与えることを「贈与」といいますが、「贈与」に対しては「贈与税」がかかります。ただ、これを避ける特別措置として、「教育資金の一括贈与」という制度が2013年から始まっています。教育費として1,500万円までの金額を子供や孫に贈与した場合、贈与税が課税されないという特別な税制措置なんです。

 

相子 へー。それなら使いやすそうですね。制度を利用するためにはなにか条件があるんですか?

 

北井 まず、非課税となるのは親や祖父母から子供、孫に対する教育資金目的の贈与だけです。資金を受け取る子供・孫の年齢は30歳未満に限られています。受け取った子供・孫は入学金や授業料、塾や習い事の費用としてもそのお金を使うことができます。ただし30歳までに教育預金として使われなかった場合は、贈与税として課税されます。

 

相子 自分の考えで自由に使うことができるんですか?

 

北井 いいえ。この制度を利用するためには、銀行に専用口座を作って最大1,500万円の預け入れをする必要があります。口座を管理する銀行は領収書などにより使用目的を精査した上で、教育目的の支出と判断できれば預けられたお金の払い出しを行うのです。

 

相子 ほかの制度と併用することはできるのですか?

 

北井 毎年110万円までなら贈与しても非課税となる「暦年贈与」というものがあります。この非課税枠と「教育資金の一括贈与」は併用することが可能です。

相続税対策に有効な「教育資金の一括贈与」

相子 ふーん。いろいろあるんですね。ちなみにこの制度を利用して、祖父母から孫に大きな資金を贈与することには、相続税対策としてほかになにか意味があるんですか?

 

北井 やはり相続を1回「飛ばせる」のは大きいですね。通常祖父から孫に財産が渡る前に、親の相続があるため、計2回相続税が課税されます。ところが祖父母から孫に生前贈与や遺贈を行うと、両親の段階を「飛ばして」効率的に財産を移すことができるのです。相続税の場合、孫が財産を受け取ると「2割加算」と言って税負担が増えます。孫の場合、相続税を1回免れることになるので、調整を図る意味があります。遺贈で孫に財産を贈るとその分を回避できるという意味でも「教育資金の一括贈与」はメリットの大きな特例ですね。

 

相子 ある意味「お金の使い道がずっと教育費に限定される」という点も安心ですね。

 

北井 たしかにそうです。子供に大きなお金を与えると、かえって教育上よくない影響を与えてしまうことがありますが、この制度の場合には口座を管理する銀行が、教育という目的に沿った出費にしか贈与されたお金を出しません。遊興費に使うことができないので、大金を持つことで生じる悪影響を抑えられます。

 

本連載は、2016年12月14日刊行の書籍『「相続」のことがたった1時間でわかる本』(幻冬舎メディアコンサルティング)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「相続」のことがたった1時間でわかる本

「相続」のことがたった1時間でわかる本

北井 雄大

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税の納税資金が足りず資産を手放すことになった、知らぬ間に親が多額の借金をしていた、相続財産の分配について家族間で争いが起こった…。相続では、正しく対策を打っておかなければ、残された家族が大きなトラブルに巻き…

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