相続対策では、基本的な知識を身につけておくことが何よりも重要となります。本連載では、必ず知っておきたい、医療費や介護費用など相続税の「控除対象」となる費用について説明します。

税金にはさまざまな「控除」が設けられている

税金にはさまざまな「控除」が設けられています。事業者にとってはおなじみですが、一般のサラリーマンでも給与所得控除や住宅ローン控除、生命保険料の控除などはなじみが深いはずです。相続税にもさまざまな控除があるので、知らずに申告し忘れると損をしてしまいます。

 

北井税理士のおかげで、相続の仕組みと計算方法、具体的にどうやって相続税を納めるのかなど、短期間でかなりの知識を手に入れた相子。自分でも勉強を続ける中で、相続には「控除」があることを知り、詳しく聞こうと再び北井税理士事務所へ。

相続税における代表的な控除は「医療費控除」

相子 先生、税金にはいろいろな控除がありますが、相続税にも控除はあるんでしょうか?

 

北井 もちろんあります。さまざまな控除が設けられているので、うまく利用すれば効率的に節税することができます。たとえば被相続人が納めていない税金などは控除の対象となりますし、準確定申告では被相続人が支払うべき所得税が相続人に課税されるので、その分が控除されます。ほかにも住民税や固定資産税など、被相続人が未納だった税金はすべて対象になりますし、未払いによる追徴金がある場合にはそれも控除されます。準確定申告については一般の確定申告と同じような控除があるので、忘れないようにしたいですね。

 

相子 うわー、たくさんあるんですね。具体的にはたとえばどんなものがあるんでしょうか?

 

北井 代表的なものとして医療費控除が知られています。被相続人が亡くなる前に病気やケガなどの治療をするために多額の医療費を支払っていた場合は、節税を考える上で大きなポイントとなります。ただし、医療費をいつ誰が支払ったかによって、誰のどの税金から控除されるかが異なるので注意が必要です。

 

相子 そんなに細かな違いがあるのですね。

 

北井 たとえば、亡くなる前に被相続人が支払った医療費は準確定申告をすることで被相続人の医療費控除の対象となります。一方、同じく亡くなる前でも、たとえば子供などの相続人が代わりに支払った場合は、立て替え払いした分が相続財産から控除されます。

 

相子 えーと。被相続人が支払っていたら医療費控除、相続人なら相続財産からの控除になるってことですかね。

 

北井 基本的にはそうですね。ただし、老親が子供に扶養されている場合には扶養義務があるため債務として控除することはできません。その場合には息子が確定申告をすることで、所得税の医療費控除となります。

 

相子 なるほどわかりました。では、亡くなったあとに支払う場合はどうなのでしょう?

 

北井 未払いの医療費は病院に払わなければいけない借金ですから「未払い費用」として相続財産から控除されます。

 

相子 ちなみにそうした医療費控除の対象になるのは入院費や手術代だけなんでしょうか? 普段の通院のときのお金は対象にはならないんでしょうか?

 

北井 そんなことないですよ。医師や歯科医師による治療の費用はほとんどがその対象です。そのほかにも健康状態の改善に役立つと考えられるものは多くが対象となります。ざっとあげるとこんな感じです。

 

[医療費控除の対象となるもの]

●医師に支払った診療費

●一部の検査や健康指導の費用

●診断書のうち治療に要するものの発行費用

●治療用のコルセットやサポーター、松葉杖、義手・義足など装具の購入費

●通院や入院に要する交通費

●レーシック手術や眼鏡、コンタクトレンズ代

●マッサージや整体、鍼治療などの費用

●入院時の食事代や差額ベッド代

●虫歯治療や歯列矯正にかかる費用

●出産にあたって病院や助産婦に支払う費用

●医師から処方箋をもらった医薬品の購入費用

 

相子 へえー。なんだか薬局にある商品の大半は医療費控除の対象になりそう。

 

北井 ならないものもありますよ。たとえば治療用品ではないドリンク剤などは医療費控除に含めることができません。

親の介護費用は「課税控除対象」になる

北井 通所介護(デイサービス)や訪問介護員(ホームヘルパー)の利用料や介護老人保健施設への支払いといった介護費用の多くも、先ほどの医療費控除の対象となります。

 

相子 具体的にはどんな費用が控除の対象になりますか?

 

北井 介護保険サービスを利用している場合、介護サービス利用料や介護老人保健施設の滞在費用における自己負担分と、食費、介護保険の支給限度を超えて利用した自己負担分などです。さらに医師から「おむつが必要」と認められた人はおむつ代のうち自己負担額分が医療費控除の対象となります。

 

相子 交通費などはどうでしょう?

 

北井 リハビリ施設への交通費などは医療費控除の対象です。

 

相子 一般の医療費と同じように控除されるわけですね。

 

北井 未払いの場合には相続財産から控除することができます。

 

被相続人が生前に支払いをすませている場合には、準確定申告の際に医療費控除を受けられます。医療費控除が認められれば、還付を受けられることがあります。

 

<まとめ>

●未納分の税金は債務として相続財産から控除される

●被相続人の医療費は支払い状況によって相続税(債務控除)や所得税(所得控除)から控除できる

●介護費用も医療費と同じように控除の対象になる

本連載は、2016年12月14日刊行の書籍『「相続」のことがたった1時間でわかる本』(幻冬舎メディアコンサルティング)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「相続」のことがたった1時間でわかる本

「相続」のことがたった1時間でわかる本

北井 雄大

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税の納税資金が足りず資産を手放すことになった、知らぬ間に親が多額の借金をしていた、相続財産の分配について家族間で争いが起こった…。相続では、正しく対策を打っておかなければ、残された家族が大きなトラブルに巻き…

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