期末までに決算賞与を支給し「振り込み証拠」を残す
月次決算、予実管理と併せ、私は「11カ月時点の決算打ち合わせ」という独自の企業モニタリングを重視してきた。たとえば3月決算の場合、年度の11カ月目に当たる2月の中頃までにその企業を訪問し、経営者と決算打ち合わせを行うのである。
訪問時点で11カ月目までの月次決算書は出来上がっているので、残り1カ月分を足した年度全体の業績を予測しても大きなズレは生じにくい。仮に予算より実績が良く、利益が多く出る見込みになれば節税が必要になってくる。
その場合、一例として決算賞与の支給を提案する。決算賞与はその期に支給すれば損金計上が可能なので節税策となる上、従業員の志気を高める効果も抜群である。
ただし、決算後に焦って対策をすると墓穴を掘るリスクがある。たとえば、決算を組むと予想外に利益が出ているとわかることがあるのだが、期末に決算賞与を出したように偽装すれば脱税だ。それを合法的に回避するには、期末までに実際に支給し、振り込み証拠を残すしかない。
こうやって節税と従業員のモチベーションアップを同時に実行できるのも、11カ月目の期中の早いタイミングで決算打ち合わせをしているからこそである。
反対に予実の乖離が大きく、利益が大幅に落ち込んでいた場合はどうか。経営者と一緒に数字とにらめっこし、予実の差を縮める対策をひねり出す。コストダウンもいいが営業攻勢のラストスパートをかけられないか、社長自身が斬り込み隊長で得意先行脚できないか―様々な可能性を提示して経営者に発破をかける。経営者の尻に火がつき、1カ月後には大きな成果が上がった・・・そんなケースも少なくない。
予実対比で利益が出れば節税し、出なければ業績アップのスパートをかける。こうして業績を追跡し、ある程度の見込みの決算にもっていくのが、11カ月目の決算チェック、私と企業オーナーとの決算打ち合わせの最大の目的なのである。
企業の経営成績が集約されている「財務諸表」
経営者の能力を突きつめていくと、「数字(財務諸表)を読み解いて経営に活かす能力があるかどうか」に行き着く。にもかかわらず、中小企業経営者はあまりにも数字に弱過ぎる。
「数字」は企業のすべてを物語っている。たとえば、100人の銀行員を目の前にして、数字を一切用いることなく自社の業績を正確に説明できるだろうか。恐らく、どれだけ時間を費やしても不可能だろう。
一方、銀行員に3期分の決算書を渡すとどうだろう。100人中100人が、言葉で説明を受けなくても業績を正確に理解するはずである。それほど決算書は、一定期間の経営成績や財務状態、キャッシュの流れを、読む人に伝えてくれるのだ。極論、それを読み解く能力さえあれば言葉はいらない。
つまり、企業経営においては言葉以上に数字が雄弁にその実態を物語るのだ。その数字を使いこなせないのでは経営者失格である。
確かに企業の経営状態の良否を判断する方法はいくつもある。「立地条件の良否」「販売ないし製造設備の良否」「取扱商品の良否」「販路ないし仕入れ条件の良否などの物的な条件」「従業員の良否など人的な諸条件」など、企業力を見極めるための指標は種々あるだろう。しかし、それらがすべて集約された結果が決算数値であるという認識だ。経験の豊かな経営者は、店舗や工場を一瞥しただけで企業経営の良否についてある程度の判断を下すこともできる。
しかし、これは経営者の鋭い分析力と直観力に負うところが大きい。いかに鋭い分析力と直観力を持っていても、その工場や機械設備への投資が借入金によるものなのか、自己資金によるものなのか、外観を眺めるだけで知ることはできない。
たとえば、立派な自社ビルを構えるA社と、古ぼけた社屋のB社。誰が見てもA社が立派で業績も好調と思うはずである。しかしA社は年商からすると明らかに過剰な10億円の借金をして見栄を張って自社ビルを建設し、一方のB社は固定資産への投資は最小限に抑える堅実な経営を貫いている。
売上規模が同等とすれば、どちらが優秀な企業だろうか。これとて財務諸表を見れば一目瞭然。外観が立派だから財政状態も裕福であるとは限らないのだ。
企業の経営成績は、「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」などのいわゆる「財務諸表」に集約されている。その財務諸表に示された数値を比較したり、相互関係を分析したりして、経営成績を数字で判断する。これが"経営分析"であり、激変する経営環境で生き残るために必修、必要な経営対策である。