有事の際の資金調達のために手を尽くしておく
中小企業経営と金融機関は切っても切れない関係にある。中小企業の資金調達手段は、金融機関などの第三者が介在する「間接金融」に限られるからである。
増資や私募債の発行といった「直接金融」も理論上は手段として考えられるが、所有と経営が一体化したオーナー経営が多い中小企業は、株の比率などの問題で増資は慎重に行うべきで現実的には難しい。私募債にいたっては引受人が会社の役員や社員、知人・友人、取引先といった企業周辺者・縁故者に限定されるため、言葉にするほど簡単には引受人を見つけて資金調達を実現できるわけではない。結果として、金融機関から融資を受けるのが、最良かつ唯一の方法となるのである。
私は中小企業にとっての金融機関の役割は、「農業における灌漑用水」と同じだと考えている。春に稲の植え付けをして営々として大切に育てた稲が秋の収穫期に黄金色に輝くと、大地の恵みに思わず祈りを捧げたくなる。ところが、そんな貴重な稲でも生育期(真夏期)僅か5〜6日間の日照り干ばつで、枯れて収穫できなくなってしまう。
そこで江戸時代の人びとは小川をせき止め、あるいは人工池を設置して、すべての田にまんべんなく水を引き込むための灌漑工事を行った。日照りが続いて稲が弱り始めても、ひとたび灌漑池の栓を抜けば、カラカラに干上がった田に恵みの水がひたひたと行き渡る。稲は元気を取り戻し、秋の実りにつながっていく。
日本の稲作は、この灌漑池を設けたことで飛躍的に進歩し、毎年一定量の収穫を得られるようになったのだ。この稲作を中小企業経営に置き換えたとき、灌漑用水の主な役割を地域金融機関が担っている。中小企業は〝地域の灌漑池〞である彼らに相談すれば、企業経営の血液である資金の供給が受けられるのである。
にもかかわらず地域金融機関に喧嘩を売る。そんなことをすれば地域金融機関との協調性を欠いて、余計に資金調達が難しくなるだけだ。銀行のほうが先に姿勢を硬化させてきたと主張する経営者もいるかもしれないが、銀行が姿勢を変えるより前に、そうならないよう常日頃から用意周到に手を尽くしておくのが経営者の役目である。
日頃から取引銀行へ経営の現況報告を
骨身を惜しまず朝から晩まで必死に働き続けていても、リーマン・ショックのような避けられない非常事態が時として否応なく中小企業に襲いかかってくる。一生懸命働いてきたのになぜうちだけ・・・打ちのめされた経営者はそう嘆くだろう。私も一経営者としてその気持ちは痛いほど理解できる。
しかしだからこそ、有事の際に本当に親身になってバックアップしてくれるような協調関係を、地域金融機関と築いておく必要があるのだ。普段は灌漑池の管理を放っておいて、いざ日照りが続いた際に水を引き込もうとしても、残念ながら恵みの水はもたらされない。いざという時の備えには、手間とコストがかかるのだ。
銀行との関係づくりも同様である。日頃から取引銀行に足を運び、経営の現況報告などを密に行っているだろうか。そうやって銀行との付き合いを大切にしておくことで、いざという時に突き放すのではなく、助けてくれる存在になってくれるはずだ。
中小企業は間接金融に頼るしかない。これは、銀行取引約定書に縛られ続ける運命を示している。経営者はその自身のポジションを再確認し、いざという時に灌漑用水が機能するように努めておかなければならない。