共有者の承諾や同意が必要ない「一部売却」
【共有名義を解消する方法(2)一部売却】自己の持分を共有者以外の第三者に売却する
(2)一部売却は、自己の持分を共有者以外の第三者に売却する方法です。前述のように、共有名義不動産そのものを売却する場合には共有者全員の同意が必要となります。しかし、自己の持分のみを売却したい場合には、他の共有者の承諾や同意はまったく必要ありません。そもそも、所有物に関しては、その所有者が原則として自由に処分できる権利が法律上、認められています。すなわち、民法206条では「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」と定められています。共有名義不動産の持分も所有物であることには変わりないため、自分だけの意思で処分することができるのです。
もしかしたら「不動産の持分を売るなんて聞いたことがない。本当にそんなことができるのか」と疑う人もいるかもしれませんが、一部売却は、不動産の共有状態を解消するためにごく一般的に広く活用されている手法です。実際、書籍『あぶない!!共有名義不動産』第二章で取り上げたトラブルのほとんどが一部売却によって解決されています。その中からいくつか解決例を紹介しておきましょう。
贈与の活用では受贈者の金銭的負担にも留意
【事例8】兄が貸しているアパートの家賃を分配してくれない
このケースでは、親から相続した都内のアパートを共有していたHさんが、アパートの管理人を務め、賃料収入を自分1人のものにしている兄に悩まされていました。Hさんは、自己の持分の実勢価格を不動産鑑定士に算定してもらい、適正価格で売却することに成功しました。
【事例10】建て替えても持分を贈与しても負担の大きい古アパート
このケースでは、古アパートを兄弟や叔母と共有していたJさんがその建て替えを提案したところ、叔母の反対を受けました。その後、Jさんは兄弟とともに持分を売却して共有関係から離脱することができました。
【事例11】海外にいる共有者が老朽化したビルに悩まされる
姉から相続し、共有の形で持っていた築50年のビルの持分を売りたいと考えていたKさん。海外に住んでいたため、日本で発行される印鑑証明書(不動産取引の決済において必要になります)や住民票が手元になく、そのことが持分を売却するうえで障害となることを危惧していました。しかし、住所が日本にない場合でも共有名義不動産の持分を売却することは可能です。このケースでは、日本大使館から取り寄せたKさんの在留証明と署名証明書を印鑑証明に代えて、無事に解決することができました。
【事例13】共有者の叔父が土地の持分だけを買い取ろうとする
Mさんは共有していた土地の上に建物を所有していました。共有者の1人である叔父から土地の持分の売却を求められ、「持分だけを売ってしまったら建物が敷地利用権を失うことになるのではないか」と不安を抱いていました。最終的には建物とともに共有持分の土地を第三者に売却することにより、Mさんの不安は解消されました。
なお、【事例10】のケースでは当初、Jさんは叔母に持分を贈与することを検討していましたが、多額の贈与税が発生することがわかり断念していました。この例も示すように、持分を手放したいからといって不用意に贈与を行うと、贈与を受けた側にかえって大きな金銭的負担をもたらすことになりかねません。そうした好ましくない事態を避ける手段としても、一部売却は有効な選択肢の1つになり得るのです。