一度トラブルが発生すると、共有状態の維持が困難に
書籍『あぶない!!共有名義不動産』第二章で紹介した共有名義不動産をめぐる様々なトラブル事例は、今現在、兄弟姉妹や親族、あるいは夫婦、友人間で不動産を共有しているという人たちにとって決して他人事ではありません。実家の家や土地、他人に貸しているマンション、アパート、共同で購入したマイホーム……どのような不動産であれ、共有名義で持ち続けている限り、トラブルが発生するリスクは常に存在しているといえるのです。
そして、いったんトラブルが起こってしまったら、共有者間に生じた感情のもつれが原因となり、以前のように共有状態を維持し続けることが困難になる場合がほとんどです。「もういやだ、兄貴とこれ以上、家を一緒に持ち続けるのはごめんだ」「賃料はみなに分けると言っていたのに、姉さんは噓つきだ。もうあのアパートには一切関わりたくない」……残念ながら、共有者に対して抱いた不満や恨みつらみが消え去ることはありません。もはや共有関係を解消することによってしか、問題を解決するすべはないのです。
共有関係を解消するうえで理想的な方法の1つ
では、共有名義不動産のトラブルから解放されるためには、つまり兄弟姉妹や親族らとの共有関係を解消するためにはどのような方法があるのでしょうか。
不動産の共有状態から離脱する主な手段としては、次の7つがあげられます。
(1)全部売却
(2)一部売却
(3)持分移転
(4)持分買い取り
(5)持分放棄
(6)土地の分筆
(7)共有物分割請求訴訟
これら(1)から(7)のいずれかの手段を適切に用いれば、共有名義不動産のトラブルは確実に解決できます。以下では、それぞれの中身について詳しくみていきましょう。
【共有名義を解消する方法(1)全部売却】共有名義不動産を共有者全員で売却する
(1)全部売却は共有名義不動産を共有者全員で売却する方法です。売却代金は、基本的に共有者間で持分に応じて按あん分ぶんされることになります。たとえばX、Y、Zの3人で3分の1ずつの持分で共有している土地が3000万円で売れた場合には、X、Y、Zで1000万円ずつ分け合うわけです。全部売却では、このように売却代金を共有者で分け合うので、みなが等しく金銭的な満足感を得ることができます。さしたるデメリットもなく、共有関係を解消するうえで理想的な方法の1つといえるでしょう。
もっとも、不動産の売却は書籍『あぶない!!共有名義不動産』第一章で触れた「変更行為」に該当するため、共有者全員の合意が必要になります。したがって、誰か1人でも売却に反対している限りは、この方法は利用できないことになります。
書籍『あぶない!!共有名義不動産』第二章で取り上げた【事例7】共有者の弟が実家の売却に突然反対した例では、この全部売却の手段によりトラブルが解決されました。このケースでは、親から相続した実家の家と土地の処分をめぐり姉弟が対立し、売却を主張していた姉のGさんが、反対していた弟に対して訴訟を起こすことも考えていました。しかし、弟も最後には同意したので、裁判を経ることなく、姉弟の合意のもと家と土地を売却することができたのです。