買い手は個人投資家か買取業者になるが…
一部売却の方法を選ぶ場合、気になるのは「買い手となるのは誰なのか」ということでしょう。
まず、通常の不動産取引のように建物そのもの、あるいは土地そのものが取引される場合とは違い、共有名義不動産の持分を買う人は限られており、投資家かもしくは買取業者のいずれかになります。
投資家は、資産運用の一環として共有持分を購入する人たちです。つまり、共有名義不動産の持分を株や債券などと同じ投資商品とみなしているわけです。たとえば、収益不動産の持分を保有すれば、そこからの賃料収入が投資家に分配されます。また、さらに別の共有者と交渉しその持分を購入するなどして、共有名義だった不動産を単独名義に改めてから売却し、利益を得る人もいます。最近は、日本人だけでなく中国、台湾など海外の投資家も増えており、不動産の共有持分に対する投資ニーズは着実に高まっています。
一方、買取業者とは、共有持分を専門的に買い取る不動産業者のことです。投資家は個人が中心であるのに対して、買取業者のほとんどは法人になります。
買取業者と投資家の購入価格を比べると?
売る側からすれば、投資家と買取業者のどちらに売るのがよいのか迷うところでしょう。もしかしたら、「法人の方が個人よりも資金力があるだろうから、買取業者の方がより高く持分を買ってくれるのではないか」と思うかもしれません。
しかし、実際に買取業者と投資家の購入価格を比べれば、前者の方がはるかに安い金額で持分を買い取っているのは間違いありません。買取業者が持分を購入するのは、あくまでも〝商売〟のためです。買った持分を転売する、あるいは他の共有者からも残りの持分を購入して単一の所有権とし、不動産を丸ごと売却するなどの方法で利益をあげることが目的なのです。利益をあげるためには、少しでも安く買い取る必要があります。そのため、買取業者は1円でも低い値段で持分を買うことに精魂を傾けます。
もちろん、利益を得ることを目的として持分を購入しているという意味では、投資家も変わりありません。しかし、投資家が持分を購入する場合には、一般に不動産仲介業者が間に入ることになります。仲介業者は、不動産鑑定士の評価に基づいて設定された価格を投資家に提示します。
つまり、投資家との間で持分の売却が行われる場合には、中立的な第三者によって価格の妥当性・公正性が保証されているわけです(ただし後述の通り、わざわざ不動産鑑定士が評価を出し、投資家を紹介してくれるような仲介業者は、まだまだ少ないのが現状です)。
それに対して、買取業者は、基本的にそうした第三者の評価を経るようなことはせずに、まったくの独断で購入価格を決めます。そのため、「とにかく安ければ安いほどいい」と適正価格を度外視した買い値を平然と提示してくる業者が少なくありません。このように、買取業者を買い手に選んでしまうと、持分を不当に低い値段で買い取られるおそれがありますので、あまりお勧めできません。