前回は、「顧客本位の業務運営に関する原則」が掲げる具体的な7つの原則について取り上げました。今回は、原則2について見ていきます。

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金融事業者は、顧客の最善の利益を図るべき

今回も、「顧客本位の業務運営に関する原則」に掲げられた各項目について詳しく見ていきましょう。

 

原則2【顧客の最善の利益の追求】

 

原則2は、「顧客本位の業務運営に関する原則」の中で、総論であり中核的な要素と考えられます。

 

原則2では、「金融事業者は、高度の専門性と職業倫理を保持し、顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図るべきである。金融事業者は、こうした業務運営が企業文化として定着するよう努めるべきである。」としています。また、「金融事業者は、顧客との取引に際し、顧客本位の良質なサービスを提供し、 顧客の最善の利益を図ることにより、自らの安定した顧客基盤と収益の確保につなげていくことを目指すべきである。」と指摘しています。

 

お客さまにとって最善の利益とは何でしょうか。この答えは、各金融事業者が自主的に考え、それぞれの答えを策定、公表する必要があります。金融庁は、市場ワーキンググループの資料で、顧客の最善の利益の追求のために、改善しなければならない問題点を具体的に指摘しています。

 

平成28年8月2日の資料「インベストメント・チェーンにおける顧客本位の業務運営の観点からの指摘の例」に、リテール販売・助言等に関する指摘として、3点挙げられています。

 

●リスク・リターンや手数料構造が分かりにくい金融商品・サービスを(投資経験が必ずしも豊富でない顧客に)推奨・販売
●販売会社において、取扱商品の内容について審査が不十分なまま勧誘・販売
●販売の現場における不適切・不十分な顧客対応

 

その背景・要因に関する指摘として次のように指摘しています。

 

●販売手数料等の収入面に過度に偏った業績目標・業績評価体系
●系列運用会社の商品販売をより重視した業績目標・業績評価体系
●販売員の短期ローテーション
●商品ラインナップが不十分(系列の運用会社の商品比率が高い状態)
●商品提供会社による自社商品の優先販売に向けた販売会社に対するインセンティブ付け(販売手数料の上乗せキャンペーン等)

 

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米国の投資信託との比較で見えてくる問題点とは?

上記の販売・助言等以外に、商品開発、アセットオーナー、資産管理・運用についても問題を指摘しています。

 

【商品開発】


●残高の少なくなった投信の運営コストの問題
●投信の商品開発・販売における系列会社(販売会社と商品開発を行う運用会社)の強い結び付き
●投信における信託報酬のあり方

 

【アセットオーナー】


●最終受益者の利益最大化に主眼を置かない運用機関の選択方法

 

【資産管理・運用】


●運用部門と法人事業部門など利益相反のおそれのある様々な事業主体が同一主体に依存
●議決権行使に当たり、受益者の利益以外の要素を考慮
●運用能力の向上に関する課題


また、8月2日の事務局説明資料(国民の安定的な資産形成とフィデューシャリー・デューティー②)では、より具体的な指摘事項を数字に基づき挙げられています。

 

【我が国における投資信託等の特徴】


●日本の投資信託の売れ筋(純資産額ベース)をみると、投資対象を特定の種類の資産(特定の国の不動産、特定の業種の株式など)に限定した商品が上位。販売手数料や信託報酬も高水準。
●売れ筋投資信託は、短期間で多くが入れ替わっている。一方、売れ筋投資信託の大半が毎月分配型投資信託。
●日本の公募投資信託のファンド数は増加を続け、足元、5,843本(2015年12月末時点)。1本当たりの残高は、2009年以降、ほぼ横ばい(160億円前後)で推移。

 

上記の問題点に関して、米国の投資信託の現状と比較し、違いを具体的に説明しています。他に、投資信託等の販売の状況として、販売チャネルの偏り、販売会社への販売奨励策、販売会社の業績評価などの問題点を、投資信託の運用の状況として、投資運用業者と販売会社の系列関係などの弊害を挙げ、最後に、個別商品として、貯蓄性保険、毎月分配型投資信託、ファンドラップの問題点を指摘しています。

 

これらの具体的な指摘事項をヒントに、金融事業者が自らベスト・プラクティスを目指して「顧客の最善の利益の追求」を考え、策定、公表することを期待します。次回も、顧客本位の業務運営に関する原則の各項目を詳しく解説していきます。

 

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本連載は、一般的な投資信託の仕組みなどを紹介することを目的にしています。投資を促したり、筆者が所属する「幻冬舎アセットマネジメント」に勧誘することを目的としたものではありません。また、投資にはリスクがあります。リスクに十分に考慮をして、投資判断を行ってください。本連載の内容に関して投資した結果につきましては、著者及び幻冬舎グループはいかなる責任も負いかねます。

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