昭和22年の民法改正で「共同相続」に
相続とは、亡くなった人の財産(資産や債務)を引き継ぐことです。日本の相続制度は、昭和22年の民法改正により大きく変化しました。
①戸主による単独相続
昭和22年以前の旧民法下では、戸主である者が家督相続(単独相続)により家のすべての財産を相続していました。また、家は戸主と家族から構成され、戸主が家を統率するとともに家族に対する扶養義務を負っていました。
②共同相続
第二次世界大戦後の昭和22年、新憲法の施行と同時に民法改正も行われ、家制度及び家督相続制度は廃止され、現在の共同相続である遺産相続制度が誕生しました。
核家族化、グローバル化などの要因も加わって…
①核家族化
戦後、日本では、憲法や民法等の改正により形式的平等社会となり、高度経済成長、高等教育の浸透の中で男女平等化が進みました。また、経済発展に伴い仕事の関係等で家族が離れて生活するようになり、親子、兄弟姉妹が経済的に独立し、次第に日本独自の家制度が実質的に崩壊し、核家族社会へと変化してきました。
②高齢者の自立
現在、少子高齢化が進み、高齢者が子供と離れ、各種の高齢者施設で生活するようになってきました。子が老いた親を扶養するという本来の家族の在り方が次第に少なくなり、高齢者は自己の財産で老後を過ごすようになり、家を守るためや子孫のために財産を残すという考え方が次第に変化しつつあります。
他方、子供は親と離れて生活し、親の面倒をみる機会も少なくなり、次第に老親との関係が希薄になってきています。このような社会の変化に対応し、老人介護制度、年金制度、財産の信託制度、後見人制度等、新たな法制度が導入され、これらの制度の恩恵を受け、経済的に自立し子供から離れて生活する高齢者が増えてきています。今後、高齢化社会の進展に伴い、さらに家族の在り方は多様化し、子供への財産の残し方も変化すると予測されます。
③グローバル化
急速に拡大する経済のグローバル化に伴い、多くの企業が海外に進出し、多くの日本人が海外に居住するようになってきました。この企業の海外進出や人の海外移住に伴い、財産が海外に移転しています。このため、海外に居住する人が国内外の財産を相続する事例、また国内に居住する人が海外財産を相続する事例も増えてきています。
④厳しい財政
世界でも類を見ない少子高齢化が進む中、日本国の財政は、すでに多額の債務を有し破綻状態にあります。このままでは今後さらに債務が増加する見込みです。このため、国民に対する税金負担や年金医療介護費用負担の増加は、避けられません。負担が増加する国民にとって、親の財産に対する期待は高まるばかりです。
⑤未体験社会
今後の日本は、65歳以上の人口が40%を超え、世界中の国が経験したことのない高齢社会に入っていくと予測されています。そこはこれまでの社会制度(社会保障制度、税制等)では対応できない未体験社会であり、新たな社会制度が必要とされます。この未体験社会では、家族制度、社会保障制度、教育制度、行政、税制、企業等も変化し、新たな制度が構築されるものと考えられます。
大きく変わる「相続のあり方」
①相続への期待と争い
家族のあり方や社会制度を含めた社会全体の変化に加え、人口が長期的に減少する厳しい経済環境の下、相続人間の所得格差も拡大する傾向にあります。また、従来、非嫡出子の相続分は、嫡出子の相続分の2分の1とされていましたが、身分制度、家族制度等に関する考え方も変化し、法の下の平等、国民の権利意識の高まり等を受け、平成25年9月4日最高裁において、非嫡出子の相続分について違憲判決が下されました。
このような環境変化は相続のあり方にも影響を及ぼし、各相続人は親の財産に対し期待を持ち、法律上の権利(法定相続分)を要求するようになり、その結果相続人間での遺産を巡る争いが増加する傾向にあります。
②相続税の申告と負担の増加
平成25年、大幅な税制改正がなされ、平成27年1月1日以後開始する相続から、課税最低限度額の引下げと税率の引上げが実施されました。この改正により、相続税の申告をしなければならない人が大幅に増加し、相続税を負担する人が多くなりました。
③相続のあり方
家族のあり方の変化、高齢者をとりまく社会制度の変化、日本経済や国家財政の変化、相続に関する法制度の変化等は、相続のあり方に変化をもたらし、相続人間の遺産分割のあり方にも影響をもたらします。