前回は、贈与側の「長生きリスク」に注意したい暦年贈与を活用した相続対策を紹介しました。今回は、「小規模宅地等の特例」の活用で土地評価額を下げる相続対策について見ていきます。

330平方メートルまでの住居用の土地に適用される特例

前回の続きです。

 

「正味の遺産額」を少なくする有効な制度として、「小規模宅地等の特例」があります。

 

「遺産」としてメインをなすのは、土地・建物の不動産ですが、せっかく被相続人が苦労して取得した不動産や、先祖代々の土地を、相続税納付のために手放さなければならないのは酷であるということから認められているのが、「小規模宅地等の評価減」の制度です。

 

すなわち、330平方メートルまでの土地が、被相続人の居住の用に供されていた土地であり、それを一定の要件を満たす者が取得した場合には、その土地の評価額の80パーセントが減額されるというものです。評価額一億円の土地が2000万円の遺産評価額になるという制度です。

 

まず、330平方メートルまでの土地が被相続人の「居住の用に供されていた土地」であることが必要となりますが、「居住の用に供されていた」とは、その被相続人がその土地で、亡くなるときに生活していたということです。被相続人が病院で亡くなったときでも、入院する前は、その土地で生活していたのなら、この要件に該当します。

 

被相続人が「老人ホーム」に入所していて、そこで死亡した場合には、どうでしょうか。「老人ホーム」への入所が、要介護状態や認知症等によるもので、不在となった住宅を他人に賃貸していない場合には、その被相続人の「居住の用に供されていた土地」と認められます。

「小規模宅地等の特例」利用の要件とは?

一方、取得者要件としては、①その土地をその被相続人の配偶者が取得するのであれば、無条件に認められます。②その被相続人と同居親族が引き続き申告期限まで保有・居住し続ける場合にも認められます。生活の拠点が別にあり、被相続人の介護のために、実家に時折泊まり込んでいたような場合には「同居親族」とは言えません。また、転勤のため、家族全員で赴任地へ転居した場合には「同居親族」とは言えませんが、家族を被相続人宅へ残して単身赴任した場合には、「同居親族」に当たり、この要件を満たします。③さらに、マイホームを持たない別居親族が、申告期限まで保有した場合にも認められます。マイホームを持っていたとしても被相続人が亡くなる三年前からそこに住んでいなければ、「持ち家がない」として、この要件を満たし、特例が適用されます。

 

私の知人が、最近、家族と一緒に住んでいた知人名義の都心のマンションから、高齢の母親が一人で住んでいる母親名義の住宅に同居するようになったのは、この「小規模宅地の評価減」の適用を受けるためだと思われます。

 

この「小規模宅地等の特例」の制度は、居住用宅地だけではなく、事業用宅地についても認められています。すなわち、400平方メートルまでの被相続人所有の「事業用宅地」については、それを被相続人の親族が取得し、取得者がその事業を承継し、その土地を継続保有する場合には、その土地の評価額が80パーセント減額されることになっています。

 

なお、この「小規模宅地等の特例」の適用を受けるためには、相続税の申告期限内に、相続税の申告をすることが必要となります。特例の適用の結果、遺産総額が基礎控除額を下回って、納税の必要がない場合でも、この特例の適用を受けるためには、相続税の申告をしなくてはなりません。

本連載は、2017年4月25日刊行の書籍『一番正確で一番わかりやすい 相続と遺言と相続税の法律案内 改訂版』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

一番正確で一番わかりやすい 相続と遺言と相続税の法律案内  改訂版

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久恒 三平

幻冬舎メディアコンサルティング

どんな人でも必ず経験する法律問題、それが「相続」です。 近年、注目度がさらにアップした「相続」問題。今回は、2016年12月の最高裁決定を踏まえた最新情報も満載の改訂版です。 相続問題が発生してから初めてプロに相談さ…

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