前回は、「基礎控除額」を大きくする相続税対策の基本手法を紹介しました。今回は、贈与側の「長生きリスク」にも注意したい暦年贈与を活用した相続対策を見ていきます。

暦年課税の活用では、贈与契約書の作成を忘れずに

前回の続きです。

 

(3)暦年課税制度を利用した贈与

「相続税対策」として、一番のお薦めは、「暦年課税」制度を利用した「贈与」を行うことです。

 

税法上、毎年、1月1日から12月31日までに行った「贈与」が110万円以内なら贈与税は発生せずに、非課税となっています。110万円以内なら、何人の人に贈与しても非課税です。妻と子供3人に、毎年110万円ずつ贈与していけば、1年間に440万円ずつ課税されずに、相続財産を減らしていくことができます。

 

ただし、贈与は贈る人(贈与者)ともらう人(受贈者)の贈与契約で成り立つものですから、贈与をする際には、必ず、「贈与契約書」を作り、贈与者と受贈者が署名・捺印しておくべきですし(図表)、さらに、受贈者名義の預金口座を作り、そこに贈与金額を送金すべきです。そして、その預金口座のカードや届出印を受贈者が保管しておくべきです。

 

[図表]贈与契約書

 

毎年110万円の贈与が行われていたとしても、受贈者の知らない、あるいは管理していない預金口座に送金がなされていたとしたら、そのような口座は、名前だけの「名義預金」口座として、贈与者の「遺産」として扱われてしまいます。

 

以上、「相続税対策」として、暦年課税を利用した生前贈与の活用が有効であることを説明してきましたが、我々人間は、何歳まで生きるのかは分からず、長生きしたのはよいが、子供たちに贈与し過ぎて、御自分の生活に困るようになっては元も子もありません。ある方からの相談で、「現在、教授になっている娘婿に、頼まれてさんざん貢いできたが、そのせいで、自分の生活が苦しくなってきたので、娘婿に、いくらか返してくれと言ったが、応じようとしない。なんとかならないか」と尋ねられましたが、うまい答えは見つけられませんでした。

教育資金、結婚資金の贈与の新制度もあるが・・・

前述したように、相続開始前3年以内の贈与は、「正味の遺産額」に組み込まれ、相続税の課税対象になりますが、課税対象に組み込まれるのは、相続人や遺言によって遺産をもらうことになった受遺者に対する生前贈与だけで、それ以外の第三者に対する贈与は、正味の遺産額に組み込まれることはありません。

 

相続税対策として、暦年課税を利用した「生前贈与」の活用を考えるのであれば、速やかに実行した方がよいのかもしれません。

 

なお、婚姻期間が20年以上の夫婦である場合には、住宅または住宅取得の資金に関して、2000万円までの贈与を行っても、贈与税が課されず、非課税の特典があります。この場合には、その贈与が相続開始前3年以内になされたものであっても、「正味の遺産額」に組み込まれることはありません。

 

さらに、30歳未満の子や孫に教育資金として1500万円を贈与する場合や、20歳以上50歳未満の子や孫に結婚・出産・育児資金として1000万円まで贈与する場合に、金融機関に専用口座を開設すれば、贈与税が課されないという制度もできました。

 

しかし、これらの制度においては、利用者がいったん立て替え払いして、領収書をもらった上で、それを金融機関に提出して払い出しをしてもらうということをしなくてはなりませんし、そもそも、祖父母や親が子や孫に必要な教育資金・生活資金をその都度贈与する場合には課税されないのですから、これらの新しい制度は、「無駄遣い」を助長するものであるとの指摘があります。

本連載は、2017年4月25日刊行の書籍『一番正確で一番わかりやすい 相続と遺言と相続税の法律案内 改訂版』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

一番正確で一番わかりやすい 相続と遺言と相続税の法律案内  改訂版

一番正確で一番わかりやすい 相続と遺言と相続税の法律案内 改訂版

久恒 三平

幻冬舎メディアコンサルティング

どんな人でも必ず経験する法律問題、それが「相続」です。 近年、注目度がさらにアップした「相続」問題。今回は、2016年12月の最高裁決定を踏まえた最新情報も満載の改訂版です。 相続問題が発生してから初めてプロに相談さ…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録