今回は、個人事業主が「法人化」を検討する際のポイントについて見ていきます。※本連載では、税理士、西浦雅人氏の著書『今すぐ社長の給料を半分に下げなさい』(リンダパブリッシャーズ)の中から一部を抜粋し、具体的な事例とともに、社長として気をつけたい「間違いだらけの節税対策」について解説していきます。

Q:個人事業主です。給与所得控除があるので、「法人成り」をして給料をもらう形にしたほうが得だと聞きました。本当でしょうか?

 

A:法人成りは慎重に!

「社会保険料の負担」を念頭に置いて判断を

個人事業主の人が会社を作って法人化することを「法人成り」と言いますが、個人事業主の人からよく聞かれるのが、個人事業主のままでいたほうが得なのか、法人成りをしたほうが得なのかということです。

 

これについては、一人ひとり状況が違うので、法人成りが得か損かは一概には言えないというのが、私の答えです。

 

ただし、一つだけ確実に言えることがあります。

 

それは、昔に比べて社会保険料が高くなっているため、法人成りをして会社から今の所得と同じ額を給料でもらうようにすると、社会保険料をかなり納めなければいけなくなるということです。

 

たとえば、現在1200万円の所得がある個人事業主が、法人成りをして会社から1200万円の給料をもらう形にした場合を例に説明しましょう。

 

まず、個人事業主は国民年金と国民健康保険に入っています。

 

国民年金は所得に関係なく月額16260円なので、年間で約20万円です。

 

国民健康保険は上限額が決まっていて、所得が1200万円ならだいたい上限額になるので、年間70~80万円でしょう(住んでいる地域によって差があります)。

 

したがって、所得が1200万円の個人事業主の国民年金と国民健康保険は、合計で年間約100万円です。

 

次に、法人成りをして年間1200万円の給料をもらうようにした場合の社会保険料ですが、こちらは個人負担分だけでなく、会社負担分もありますので、それを合わせると年間270万円(個人負担135万円+会社負担135万円)。

 

つまり、これだけで一気に170万円もの負担増になるというわけです。

 

以前は法人成りをしても、国民健康保険と国民年金のままでもよかったといったら語弊がありますが、実際入らずに逃れている人が結構いましたが、今は法人成りをすると社会保険に加入しなければならなくなりました。

 

ですので、法人成りを検討する場合は、社会保険料のことを念頭に置いたうえで検討することをおすすめします。

よくある事例・・・家族全員でまさかの500万円の損!?

法人成りをしようかどうかと悩む方のよくありがちな事例をご紹介します。

 

父親58歳、母親57歳、長男32歳、次男30歳の4人家族で、個人事業を営んでいるという鈴木さんのケースです。

 

                  国民健康保険税   国民年金

●父親所得 720万円          80万円     20万円

●母親給与 600万円(月50万円)            20万円

●長男給与 480万円(月40万円)            20万円

●次男給与 480万円(月40万円)            20万円

 

国民健康保険税の合計は、家族全員で80万円です(自治体によりますが、国民健康保険税は家族全員の金額で、80万程で上限になります)。

 

国民年金の合計も、家族全員で80万円です(20万円×4人分)。

 

国民健康保険税と国民年金の合計は160万円になります。

 

では、法人成りをして、株式会社鈴木になった場合、どうなるのか?

 

健康保険と厚生年金は、個人と法人の合計負担額で記載しています。

 

                   健康保険   厚生年金

●父親給与 720万円(月60万円)   81万円     128万円

●母親給与 600万円(月50万円)   69万円     109万円

●長男給与 480万円(月40万円)   49万円    89万円

●次男給与 480万円(月40万円)   49万円    89万円

 

健康保険の合計は、家族全員で248万円。

 

厚生年金の合計は、家族全員で415万円。

 

健康保険と厚生年金の合計は663万円です。

 

このように、個人のままでいた場合の方が、健康保険・年金関係で503万円(=663万円―160万円)もトクということになります。「こんなに差が出ることを知っていたら、個人のままでいたのになー」という方も多いのではないでしょうか?

 

10年で5000万円もの差が出ますので、法人成りは慎重に!

 

ちなみに、個人事業主の中には、年間70~80万円の国民健康保険の負担すらキツイという人もいると思います。

 

そういう人のために、書籍『今すぐ社長の給料を半分に下げなさい』第2章では年間80万円の国民健康保険を一気に8万円に減らす方法をお教えします。

本連載は、2017年1月31日刊行の書籍『今すぐ社長の給料を半分に下げなさい』(リンダパブリッシャーズ)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

今すぐ社長の給料を半分に下げなさい

今すぐ社長の給料を半分に下げなさい

西浦 雅人

リンダパブリッシャーズ

はじめまして、税理士の西浦雅人です。私はこれまで数多くの社長や個人事業主の方とお会いしてきましたが、残念なことに世の中には間違った節税対策をしている人が、本当にたくさんいるものです。私の知り合いの社長も、そんな…

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