前回は、被害者の苦痛を増幅させる交通事故補償制度の現状を取り上げました。今回は、交通事故による「物損」の補償制度の問題点を見ていきます。

原則、物損に関しての慰謝料は認められない

交通事故補償には人身の補償の他に、物損の補償がある。交通事故には多かれ少なかれ車やバイクなどの損傷がつきものである。そんな乗り物などの物損に関して、どのような補償がなされているのだろうか。ちなみに自賠責保険は人身だけを扱っているので、物損に関しては任意保険の取り扱いということになるのだが、この物損に関してもまた大きな問題があるのである。

 

その一つが、物損に関しては原則として慰謝料が認められないことだ。人身の場合はこれまで見てきたように、傷害、後遺障害いずれに関しても慰謝料が定められていた。しかし物損の場合、いくつかの例外を除いてまず慰謝料は発生しない。例えば買ったばかりの新車同様の車を、事故によって破損させられてしまった場合、被害者の喪失感、精神的なダメージはかなり大きいものがあるし、本来わずらわされることのない様々な手続きややり取りに時間や労力を取られてしまうという問題もあるはずだ。そういったことに関しては原則的に補償をするという概念も確固とした枠組みもないのである。

制度そのものが「お粗末」・・・十分な補償は期待薄

もう一つは修理代と時価の比較で、低い方しか払われないということである。時価とは損害が発生した時点で、その物件が取引されている価格をいい、実際多くの場合は中古車業界で作成する『自動車価格月報』、通称レッドブックと呼ばれるものを参考に、その時の取引価格、つまり中古市場価格で評価されるということだ。これによるとたとえ買ったばかりのピカピカの新車であっても、一律に中古車として評価されてしまうということになる。

 

そればかりではない。今、仮に事故車の修理に50万円かかったとしよう。この車の時価が40万円にしかならなければ、補償額は40万円しか支払われないのである。なかには年代物で、本人にとって非常に愛着があり、お金をかけて修理したいと望んでも、時価までの修理代しか出ないので満足な修理ができないこともある。

 

さらにもう一つの問題は、このようにして修理した車は当然格落ち扱いとなってしまうが、これに関しては補償がほとんどなされないのが現状であることだ。実際、格落ちに関してはなかなか保険会社と折り合わず、裁判で決着をつけるということがしばしばある。

 

このような問題点があるために、実際問題として交通事故に巻き込まれ車やバイクなどを損傷してしまったら、まず十分な補償がなされるという期待は持たない方がいい。物損の補償制度そのものが実にお粗末で不整備なのである。

本連載は、2015年12月22日刊行の書籍『ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

谷 清司

幻冬舎メディアコンサルティング

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