効率的市場仮説を実践で覆したビル・ミラー
ビル・ミラーはウォーレン・バフェット、ピーター・リンチと並ぶ20世紀が生んだ偉大な3大投資家と称せられる。
この3人のうちで私が最もひきつけられる投資家である。彼が異色なのは全天候型の運用投資を行うことだ。
ビル・ミラーは米大手投資銀行(レッグメイソン)でバリュー・トラストという大型ファンドを長年にわたり運用し、1991年〜2005年の15年間にわたりS&P500を上回る実績を上げた。
有名なユージン・ファーマ教授(シカゴ大学)は「相場は利用可能なすべての情報を反映するので、長期にわたって継続的に市場平均を打ち負かすのは不可能」という効率的市場仮説を唱え、その理論が運用の世界では常識として受け入れられてきた。
しかし、その仮説を自ら実践で覆したのがビル・ミラーであった。
彼は自分の経験をもとに開発した投資手法で銘柄を選び、その成果の分布を検討し、適切な銘柄選択の手法を明確にした。そして本質価値と比べて割安な企業に投資する。資本の大小や、運用先の国内外などは問題にしない。
「特定の投資スタイルにとらわれない運用を目指す」ので、売買の回転率が高く年間の運用経費率が1.67%と高い(他のアクティブファンドの平均経費率は1.47%)。
2016年2月に米CNBCテレビに出演したとき、「アマゾンの株価が18%下落したので2016年の初頭1ヵ月の運用は20%のマイナスになった」とパフォーマンスの大幅な悪化を公表し、「株価の安いことは将来の高い成果を約束するもの」と語った。
「S&P500の平均配当利回りは2.3%、企業は配当を9%も増やした。こんなとき、なぜ1.9%の金利の10年国債を選択するのか理解できない」と「株価の安くなったときは、絶好のチャンスだ」と語った。その後、アマゾンは7ヵ月で80%以上も大きく反騰した。
ミラーが注目した「ジカ熱」関連銘柄
ハイテク経済では、グレアム&ドッドの教えがそのまま効率的運用には当てはまらないと主張する。
「バリュー投資家は結局、有形固定資産をもつ事業の株を買うことになります。具体的には製造業や資源産業です。そのような企業が経済や市場に占める割合はどんどん小さくなっている。そのやり方に固執しているとチャンスを逃すことになる」
と主張し、グレアム&ドッドの手法は、本来は静態的な性格をもっており、技術革新が生み出すダイナミックな経済にはうまく適合しないとみる。
ごく最近CNBCテレビに出演したときに取り上げた銘柄は、これまで聞いたこのないイントレキシオン(XON)であった。
「ひょっとしたら向こう10年間に最高のパフォーマンスを上げるかもしれない」と語っている。
この銘柄は2013年に公開してまだ時間の経たない歴史の浅い株だが、自ら運用するファンドの組み入れトップ10にいれたことからして彼の自信のほどがわかる。
ビル・ミラーが注目したのは「ジカ熱」関連銘柄で、それがきっかけになって「ジカ熱」問題がメディア上では盛んに取り上げられるようになった。発病の震源地はブラジルだが中国、オーストラリアでも、その後に感染者が発見された。
日本経済新聞にも、「ジカ熱対策2100億円」(2016年2月9日夕刊)という次の記事が掲載された。
「蚊の媒体による感染症『ジカ熱』が中南米などで拡大しているのを受け、オバマ米政権が8日、18億ドル(1980億円)以上の緊急対策予算を議会に求めると発表した。ジカ熱は妊婦が感染すると胎児に影響が出る。
米国でも渡航先で感染した患者が出た。(中略)ジカ熱は軽い発熱などで症状は重くはないが、妊婦が感染すると新生児の脳の発育が不十分になる『小頭症』との関連が疑われている。1日には世界保健機関(WHO)が緊急事態宣言をした」
[図表] イントレキシオン(XON)