世界最大のマジェラン・ファンドを育てた投資家
20世紀が生んだ3大投資家の1人といわれるピーター・リンチの株式投資から始めよう。
彼はマジェラン・ファンド(フィデリティ・マネジメント)を世界最大の投資信託に育て上げた。1977年に1800万ドル(19億8000万円)でスタート。1990年には140億ドル(1兆5400億円)の大規模な投信になった。
彼が運用を始めたときに1000ドル(11万円)投資をしたら、13年後には2万8000ドル(308万円)と28倍になった。
米国が20世紀に生んだ偉大な投資家3人に数えられる(ほかの2人はウォーレン・バフェットとビル・ミラー)。
なかでもいちばん、私に身近な存在として感じられるのは、日本株の売り込みにフィデリティをしばしば訪問したが、そのときにボストンの本社で活躍していたからだ(残念ながら会うことはできなかった)。彼に面接できていたら投資法則の一片でも実践にとりいれることができたかもしれない。
彼の投資法則のなかでも、成功するためには「テン・バガー(ten bagger/10倍になる株)を見つけることが最高の目標」という言葉に最もひきつけられる。口にするのは簡単だが、実践するとなると容易なことではない。
「保存し続けること」は利益を上げる唯一の方法
彼もこのことは承知のうえで、「10年間に大化けする株を2つ見つけるのがやっとである。規模の小さい投資家は、〝5つの法則〞に従って、自分のポートフォリオを5銘柄に絞りこむことは可能だ。その内の1銘柄だけでも10倍株になれば、他の銘柄がそろって横ばいとしても、資産は3倍にふくれる」(『ピーター・リンチの株の法則』ダイヤモンド社刊)。「第5番目の法則」については次のように書いている。
「ある面においては、株式投資信託は株式となんら変わらない。利益を上げる唯一の方法は保存し続けることである。そのためには強い意志が求められる。株式投資ができない臆病な投資家にとって株式投資信託は何らそれを克服する方法とはなりえない。最も高いパフォーマンスを上げているファンドが、調整局面において平均的な株式よりも大きく値下がりすることは通常よく起こることである。私がマジェラン・ファンドの指揮をとっていたとき、通常の株式が10%下落した9回のケースにおいては、マジェラン・ファンドの値下がりのほうが市場よりも大きく、反発のときの戻りは市場よりも大きかった。この反発から利益を上げるためにも、投資家はファンドを持ち続ける必要がある。
何が起きてもそれに対する備えがあれば、人々は悩みもするだろうが、驚いたりはしないだろうという考えに基づき、マジェラン・ファンドの投資家への手紙のなかで、マジェラン・ファンドは荒れた波には揺れやすい傾向があると警告しておいた。そのために多くの株主は、とり乱すことなくファンドを保有し続けてくれた。しかし何人かの投資家はそうではなかった。
自分の保有している株式が50%値下がりすることに耐えられない投資家は株式を保有するべきでない、というウォーレン・バフェットの警告は、投信信託にもまたあてはまる」
テン・バガー(10倍株)を見つけ成功する心得をピーター・リンチは説き、長期投資の視点で株式を選択すれば必ず全体の成果を押し上げる投資成果を上げる自信を披露した。いまでは運用資産規模1兆円は珍しくないが、20世紀には希有なことであり、当時には真似のできない世界最大規模のファンドをつくり上げた運用者の言葉だけに説得力がある。
彼は1990年に47歳になったとき、現役を引退してマジェラン・ファンドの運用から手を引いた。ソロスのいう彫刻のブロンズ像(時代が経っても崩れない)よりも強固な成果を残した。「ピーター・リンチのいうテン・バガー(10倍株)を見つけるのは夢のような話」という向きも多いが、それの実現性は日本株投資でも現実には事例も散見され、ここ10年間を振り返ってその種の株を拾い上げ具体例をみれば、今後の投資成功法を見つけるヒントが得られる。
[図表] 十倍株の実例