税務情報と移民政策の境界はどこにあるのか
さらに気になるのが、IRSが保有する納税者情報の取り扱いです。
昨年、国土安全保障省とIRSとの間で協定が結ばれ、4万7,000人以上の納税者情報がICE(米移民・関税執行局)に提供された問題がありました。この情報提供については、ワシントンD.C.巡回区控訴裁判所が違法と判断しています。
米国には、税務申告に関する情報を保護するFederal Tax Privacy Lawがあり、IRSが確定申告書などから得た個人の機密情報を、他の政府機関に提供することは厳しく制限されています。
税務当局に提出した情報が、そのまま移民政策の執行に利用されることになれば、「税務申告のために提供した情報を、どこまで政府が別の目的で利用してよいのか」という問題が生じます。
今回の確定申告書の改正案も、こうした問題と無関係とは言い切れません。
確定申告書が「税金を計算する書類」から変わる可能性
今後、この改正案はOffice of Management and Budget(OMB)の承認を得る必要があります。OMBは大統領府に属し、大統領の政策課題を推進する役割を担う機関です。そのため、民主党やメディアなどから強い反対がない限り、最終的には承認される可能性が高いと考えられます。
米国の確定申告書は、もともと日本のものに比べて質問事項が多く、税額計算以外の情報も納税者から収集する仕組みになっています。
今回、そこに市民権や就労資格を問う質問が加われば、確定申告書が単に「税金を計算して納めるための書類」という位置付けから、さらに幅広い納税者情報を政府が把握するための手段へと変わっていく可能性があります。
税務申告と移民政策は、本来、別の行政分野です。しかし、その境界が少しずつ曖昧になっているようにも見えます。
習近平氏をホワイトハウスに招いたトランプ大統領ですが、こうした政府による個人情報の把握と利用のあり方を見ていると、中国やロシア、北朝鮮などの指導者が持つ強大な権限を、ある意味で羨ましく思っているのではないか――そんな皮肉すら感じてしまいます。
奥村 眞吾
税理士法人奥村会計事務所
代表
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