(※写真はイメージです/PIXTA)

年齢を重ねるにつれ、これまで当たり前にできていた家事や身の回りのことが、少しずつ難しくなる場合があります。高齢の夫婦だけで暮らしている家庭では、一方がそうした変化を補ううちに負担が増え、離れて暮らす家族がその状況を知らないまま時間が過ぎてしまうこともあります。家族が異変に気づくのは、思いがけない出来事が起きてからかもしれません。

「母のことは全部、父がやっていた」娘が初めて知った実情

翌朝、美紀さんが改めて実家を訪れると、正雄さんは台所で朝食を用意していました。食卓には、母の薬が曜日ごとに分けて置かれています。

 

「これ、お父さんがやってるの?」

 

尋ねると、正雄さんは「最近は俺が用意しないと、飲んだかどうか分からなくなるから」と答えました。

 

話を聞くうちに、母の物忘れが半年ほど前から増えていたことが分かります。同じ買い物を何度もしたり、料理中に火を止めたか不安になったりすることがあり、正雄さんが食事の支度を引き受けるようになっていました。

 

夜中に和子さんが起きて、「明日は何曜日?」「お父さんはどこ?」と尋ねることも増えていたといいます。

 

「寝ていても何度か起こされるんだ。昼間も目が離せない気がして、疲れてしまってね」

 

正雄さんは、母の変化を娘に詳しく伝えていませんでした。

 

「お前にも仕事があるだろう。それに、まだ2人で何とかなると思ってた」

 

美紀さんは、実家を訪れたとき、父が食事を用意してくれていた理由を初めて理解しました。

 

厚生労働省の『2022年国民生活基礎調査』を基にした内閣府『令和6年版高齢社会白書』によると、要介護者等と同居する主な介護者のうち、60歳以上の割合は男性75.0%、女性76.5%に上ります。高齢者が高齢の家族を支える、いわゆる「老老介護」は珍しいことではありません。

 

ただし、和子さんについては、この時点で認知症と診断されていたわけではありません。

 

美紀さんは父と相談し、まず母をかかりつけ医に連れていくことにしました。その後、地域包括支援センターにも連絡し、生活の状況を伝えます。

 

診察では、物忘れの経過や日常生活で困っていることを確認。必要な検査を受けながら、今後の支援について相談することになりました。

 

正雄さんについても、睡眠不足や疲労が続いていたため受診を勧められました。

 

内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』では、子どもとの同居・近居を希望する65歳以上のうち、88.7%がそのメリットとして「ちょっとした手助けが必要な場合に安心して過ごせること」を挙げています。

 

美紀さんはその後、週に一度は実家へ足を運び、買い物や通院に付き添うようになりました。父の負担を減らすため、配食サービスなどの利用も検討しています。

 

「あの夜、父がいなくなったことばかり心配していました。でも、父がそこまで疲れていたことにも、母の様子が変わっていたことにも気づいていなかったんです」

 

正雄さんは現在、娘に家事の一部を任せ、以前より休む時間を取れるようになったそうです。

 

高齢の夫婦が自宅で生活を続けていると、家族は日常が維持できていることに安心する場合があります。しかし、その暮らしを支えるために、一方が家事や見守りを抱え込んでいることもあります。食事の準備や服薬管理、夜間の睡眠など、具体的な生活の様子を確認することが、支援の必要性に早く気づく手がかりになるでしょう。

 

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