「お父さんが帰ってこない」深夜1時、母からの電話
「お父さんがいないの。どこに行っちゃったんだろう」
深夜1時過ぎ、母から涙声の電話を受けたのは、会社員の美紀さん(仮名・54歳)です。
母の和子さん(80歳・仮名)は、父の正雄さん(82歳・仮名)と2人暮らし。美紀さんの自宅から車で30分ほどの場所に住んでいます。
両親はともに年金生活で、住宅ローンを完済した一戸建てで暮らしていました。美紀さんは月に1~2回実家を訪れ、買い物や食事を一緒にすることもあります。
「父は昔から几帳面で、母よりずっとしっかりしていました。年齢のわりに元気だと思っていたんです」
ところが、その夜の電話はいつもと様子が違いました。
和子さんは「お父さんがいない」「何度呼んでも返事がない」と繰り返すばかり。いつから姿が見えないのか尋ねても、はっきりしません。
美紀さんはまず父の携帯電話に連絡しましたが、応答はありませんでした。
「家の中を見てもいないの?」
そう聞くと、母は「どこも見たけどいないの」と泣き始めます。
美紀さんは夫に事情を伝え、すぐに実家へ向かいました。父の行方が分からず、夜間でもあったため、移動中に警察にも相談しました。
到着すると、玄関の鍵はかかっておらず、廊下には明かりがついたまま。和子さんは居間で座り込み、「さっきまでいたのに」と繰り返していました。美紀さんが家の中を確認すると、父の上着と靴がなくなっています。
しばらくして、警察から父親らしい男性が見つかったとの連絡が入りました。正雄さんは、自宅から徒歩15分ほどの場所にあるコンビニの前にいたのです。幸い、けがはありませんでした。
迎えに行った美紀さんが「こんな時間に何してたの?」と尋ねると、父は疲れた顔で答えました。
「ちょっと外の空気を吸いたくなったんだよ」
認知症によって道に迷ったわけではなく、自分の意思で家を出ていました。しかし、美紀さんが気になったのは、その後の父の言葉でした。
「このところ、夜もまともに眠れていなくてな」
父はそれ以上話そうとしませんでしたが、美紀さんには思い当たることがありませんでした。
