「60歳で定年なのに?」企業型DCの受け取りを断られた理由
「定年したら使えると思っていました。まさか、すぐには引き出せないなんて……」
そう話すのは、60歳の正志さん(仮名)です。
正志さんは大学卒業後、メーカーに約38年間勤務。60歳で定年を迎えました。妻の裕子さん(58歳・仮名)とは2人暮らしで、子ども2人はすでに独立しています。
住宅ローンは完済しており、夫婦の預貯金は約1,100万円。これとは別に、勤務先から現金で支給される退職一時金が約1,400万円ありました。
さらに、正志さんには企業型確定拠出年金(企業型DC)の資産が約620万円ありました。
会社が企業型DCを導入したのは、正志さんが51歳のときです。それまでの退職給付制度が見直され、以後の退職給付の一部が企業型DCとして積み立てられる仕組みになりました。
制度の説明会には参加しましたが、正志さんは細かな内容を覚えていません。
「会社が毎月お金を積み立ててくれる制度、という認識でした。運用商品も最初に選んだきりで、あとはほとんど見ていなかったんです」
年に数回届く残高のお知らせも、金額を確認する程度でした。
退職を控えたころ、正志さんは妻にこう話していました。
「退職金と確定拠出年金を合わせれば2,000万円くらいある。しばらくは大丈夫だろう」
夫婦の公的年金が本格的に支給されるまでには、まだ数年あります。正志さんは当面、退職一時金と預貯金を取り崩しながら生活し、必要になれば確定拠出年金の620万円も使うつもりでした。
ところが、退職前に受給手続きを確認した際、運営管理機関の窓口で思いがけない説明を受けます。
「お客様の場合、老齢給付金を受け取れるのは61歳からになります」
正志さんは思わず聞き返しました。
「えっ、60歳で定年なんですけど。それでも受け取れないんですか?」
理由は、企業型DCの加入期間にありました。
厚生労働省によると、確定拠出年金の老齢給付金を60歳から受け取るには、原則として通算加入者等期間が10年以上必要です。8年以上10年未満の場合は61歳、6年以上8年未満の場合は62歳からとなります。
正志さんには、それ以前の確定拠出年金への加入歴や、他制度から移換した際に算入される期間がなく、60歳時点の通算加入者等期間は約9年でした。したがって、60歳で退職しても、その時点では受給できなかったのです。
「会社を辞めたら受け取れるものだと思い込んでいました」
退職まで勤め上げれば使えるはずだった620万円。その受け取りが先になると知り、正志さんは資金計画を見直すことになりました。
