「家賃収入があれば安心」相続直後に抱いていた期待
「相続しなければよかったと思うことがあります。こんなに大変だとは思っていませんでした」
そう話すのは、64歳の由紀子さん(仮名)です。
由紀子さんは夫と2人暮らし。長年会社員として働き、60歳で退職しました。夫婦の自宅は夫名義で、由紀子さん自身には退職金を含めて約4,500万円の金融資産がありました。
転機となったのは、3年前に母親が亡くなったことです。
父親はすでに他界しており、由紀子さんは一人娘。母が所有していた3つの不動産を相続しました。
一つ目は、地方都市の駅から徒歩圏内にある築35年の賃貸アパート。6戸のうち当時は5戸が入居しており、不動産会社から示された概算の市場評価額は約7,500万円でした。
二つ目は、母が暮らしていた築40年以上の一戸建て。土地を含めて約3,500万円。
三つ目は、以前は月極駐車場として使われていた土地で、評価額は約1,500万円でした。
合わせて約1億2,500万円。由紀子さん自身の金融資産を加えると、資産総額は約1億7,000万円になります。
ただし、これらは不動産会社などが示した概算額を基にしたもので、相続税の評価額とは異なります。
「母は昔から不動産を持っていましたが、全部合わせてそんな金額になるとは思っていませんでした」
当初、由紀子さんは賃貸アパートの家賃収入があれば、退職後の生活にも余裕が生まれると考えていました。
ところが、相続の手続きを進めるうちに、想定していなかった支出が次々と明らかになります。
まず、相続税です。
母の預貯金はそれほど多くなく、由紀子さんは税理士に依頼して申告を進めました。納税資金は自身の預貯金から用意する必要がありました。
「資産は増えたはずなのに、最初に自分の口座からまとまったお金が出ていくんです」
さらに、賃貸アパートでは相続から半年ほどで入居者が2組退去しました。空室を埋めようと管理会社へ相談すると、室内設備の交換や内装の修繕を勧められます。
「家賃が入ってくるだけだと思っていたのに、最初から100万円単位のお金が必要になりました」
由紀子さんは、相続した財産の扱いに少しずつ不安を感じるようになりました。
