「しばらくは何もしないよ」定年を楽しみにしていた60歳夫
「40年近く働いたんだから、半年くらいは何もしないでゆっくりしたいな」
定年を数ヵ月後に控えたころ、正志さん(仮名・60歳)は妻の裕子さん(58歳・仮名)にそう話していました。
正志さんは大学卒業後から同じ会社に勤め、60歳で定年退職。退職金として約2,000万円を受け取りました。
厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』によると、勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者に支給された1人平均退職給付額は、大学・大学院卒の管理・事務・技術職で1,896万円です。
夫婦には独立した子どもが2人おり、住宅ローンも完済済み。退職金とは別に約1,500万円の預貯金がありました。
勤務先には65歳までの再雇用制度がありましたが、正志さんはすぐには利用せず、いったん退職することを選択。
「朝起きる時間を決めなくていい。平日に旅行にも行ける」
そんな生活を楽しみにしていました。
退職日の夜、裕子さんはいつもより少し豪華な夕食を用意しました。
「長い間、お疲れさま」
2人で乾杯し、正志さんは「明日から本当に毎日休みか」と笑ったそうです。
ところが翌朝、朝食を終えたところで裕子さんが茶封筒を持ってきました。中に入っていたのは、数枚の紙でした。
最初の紙には「退職後の生活について」と書かれています。
毎月の生活費、固定資産税や保険料など年間で発生する支出。さらに次の紙には、掃除、洗濯、ゴミ出し、買い物、夕食づくりといった項目が並んでいました。
最後には、
「平日の昼食は各自」
「週2日は夕食も各自」
「お互いの予定を細かく確認しない」
という記載まであります。
「何これ?」
正志さんが尋ねると、裕子さんは「これから毎日一緒にいるんだから、一度決めておきたかったの」と答えました。
紙には何度も書き直した跡がありました。
「まさか、ずっと準備してたの?」
正志さんが驚くと、裕子さんは笑わずに言いました。
「あなたは明日から休みだけど、私は明日から家事が増えると思ってたから」
