夫婦が失っていた「自由な時間」…妻のひと言で変えた暮らし方
移住から1年ほど経ったころ、由美子さんが言いました。
「私たち、退職したらもっと出かけるんじゃなかったっけ?」
隆さんは「落ち着いたら行けばいいよ」と答えました。
しかし春になれば庭仕事、梅雨には湿気対策、夏は草刈り。秋には落ち葉を片づけ、冬を前にすき間風が気になる場所を確認します。
古民家暮らしそのものが嫌になったわけではありません。ただ、マンション時代には管理会社などに任せていた部分まで、自分たちで判断する必要がありました。
内閣府の同調査によると、65歳以上が現在の住まいについて挙げた問題点では、「住まいが古くなり、いたんでいる」が29.5%、「断熱性や省エネ性能が不十分」が16.9%、「段差や階段等があり使いにくい」が12.7%でした。
さらに地域については、「日常の買い物に不便」が23.9%、「医院や病院への通院に不便」が23.8%、「交通機関が高齢者には使いにくい、または整備されていない」が21.5%となっています。
夫婦の場合、買い物や通院には今のところ困っていません。問題になったのは、もっと身近な「時間」でした。
ある秋、由美子さんが2泊3日の温泉旅行を提案したときも、隆さんは「その週に庭を片づけたいんだよな」と渋りました。
「家を守るためにここへ来たわけじゃないでしょう?」
その言葉で、隆さんもようやく自分たちの暮らしを振り返ったといいます。
翌年から、夫婦はすべてを自分たちで維持しようとするのをやめました。庭の草刈りは年に数回業者へ依頼。専門的な補修も「自分でできるか」ではなく、安全性や作業時間を考えて任せるようにしました。
もちろん費用はかかります。それでも隆さんは、「退職金を減らしたくなくて自分でやっていたけど、そのために毎週家の手入れをしていたら、何のために退職したのか分からない」と話します。
その年の秋、夫婦はようやく3泊4日の旅行へ出かけました。
古民家を手放す予定はありません。ただし、「古い家を完璧な状態に保つこと」は目指さなくなったそうです。
高齢期の住み替えでは、購入価格やリフォーム費用、買い物・通院の利便性などが重要な判断材料になります。それに加え、住まいを維持するために年間どの程度の作業が必要なのか、その作業を何歳まで自分たちで担うのかも考えておきたいところです。安く購入できる住宅であっても、維持には費用や時間がかかります。退職後にどんな毎日を送りたいのかまで含めて住まいを選ぶことが、移住後の暮らしを長く続けるためのポイントになるでしょう。
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