息子が施設側に求めた確認
浩一さんはその日のうちに、施設の生活相談員へ事情を伝えました。
高齢者は皮膚が弱く、移乗などの際に内出血する場合もあります。浩一さんが知りたかったのは、「いつ、どうしてできたのか」でした。
施設側が介護記録や勤務状況を確認し、和子さんからも話を聞いたところ、ある職員の介助を和子さんが強く怖がっていることが分かりました。
排泄介助を頼んだ際にため息をつかれたり、「さっきも呼びましたよね」と強い口調で言われたりすることがあったといいます。また、車いすへの移乗時に腕を強くつかまれ、「痛い」と伝えても介助を続けられたことがあったと話しました。
「だから呼び出しボタンを押すのが怖かったの?」
浩一さんが尋ねると、和子さんはうなずきました。
施設側は問題を把握した後、該当職員を和子さんの介助から外し、管理者による聞き取りを開始。市区町村にも相談・報告し、事実関係を確認することになりました。
高齢者虐待防止法では、養介護施設従事者等による虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合、生命や身体に重大な危険があるケースでは市町村への通報が義務づけられています。それ以外の場合にも通報に関する規定があります。
厚生労働省『令和6年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』によると、施設職員などによる高齢者虐待について市町村が受け付けた相談・通報は3,633件。前年度の3,441件から192件、5.6%増加しています。
そのすべてが虐待と判断されるわけではありません。それでも、本人の訴えや身体の変化など、気になる兆候があれば事実を確認することが重要です。
その後、和子さんは別の職員による介助を受けるようになりました。
しばらくして浩一さんが面会すると、母は以前より落ち着いた様子で、「今日はお風呂だったの」と自分から話しました。
「家に帰りたい?」
浩一さんが尋ねると、和子さんは少し考えてから、「家には帰りたいけど、ここでも大丈夫」と答えたといいます。
施設で暮らす本人の言葉が、いつも事実関係を正確に説明できるとは限りません。一方で、「帰りたい」「怖い」「嫌だ」といった訴えを、施設生活への一時的な不満だと最初から片づけてしまえば、変化を見落とす可能性があります。
電話での声の調子、面会時の表情や身体の状態、職員への反応など、普段との違いを一つずつ確かめる。家族だけで判断できないときには、施設の管理者や生活相談員、市区町村の高齢者虐待に関する相談窓口などへ伝えることも選択肢です。本人が安心して生活を続けるためにも、小さな変化を確認につなげることが大切でしょう。
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