「待っているだけじゃ変わらない」半年後に始めたこと
入居から半年ほど経ったころ、美智子さんは長女との電話で、何気なくこう漏らしました。
「ここに来たら、もう少し人と話す生活になると思ってたんだけどね」
長女から返ってきたのは、「マンションの外で何か始めてみたら?」という言葉でした。
美智子さんは少し意外に感じました。せっかくシニアマンションへ移ったのだから、そこで交流を見つけようとばかり考えていたからです。
振り返れば、以前の家に住んでいたころも、親しい友人の多くは「近所だから」知り合った人ではありませんでした。
子どもを通じて知り合った人、パート先で仲良くなった人、長年通った趣味の教室で出会った人。それぞれにきっかけがあり、時間をかけて付き合いが続いてきたのです。
そこで美智子さんは、市の広報誌で見つけた初心者向けの絵画講座に申し込みました。週に1回、マンションからバスで15分ほどの施設へ通います。
すぐに親しい友人ができたわけではありません。それでも、毎週同じ曜日、同じ時間に顔を合わせているうち、講座が終わったあとに数人でお茶を飲むようになりました。
マンション内でも変化がありました。体操でよく顔を合わせる女性に、美智子さんから「今度お昼でもどうですか」と声をかけたのです。
「誘って迷惑だったら嫌だなと思って、ずっと言えなかったんですよ。でも向こうも『行きましょう』って。お互い同じことを考えていたのかもしれませんね」
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、直近1年間に何らかの社会活動へ参加した65歳以上の人のうち、生きがいを「十分感じている」または「多少感じている」と回答した割合は84.6%でした。いずれの活動にも参加しなかった人より23.0ポイント高くなっています。
美智子さんは、シニアマンションへの住み替えを後悔してはいません。庭仕事はなくなり、住まいの管理も以前より楽になりました。館内に人の気配があることも、一人暮らしの安心につながっています。
ただ、一つだけ考え方が変わりました。
「住む場所を変えれば、生活も全部変わると思っていたんでしょうね。でも、友達まで用意されているわけじゃない。当たり前なんですけど、住んでから気づきました」
高齢期の住まいを選ぶ際、設備やサービス、立地を確認することは重要です。一方、人との交流については、建物の仕組みだけでなく、どのような活動があり、自分がそこでどう過ごしたいのかまで考えておく必要があります。
安心して暮らせる場所を確保したうえで、その内外に自分から出かける場所を持つ。住まいと人とのつながりを分けて考えることも、新しい環境で生活を組み立てる一つの方法でしょう。
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