子どもが独立して15年、それでも残していた2つの部屋
「家を建てたときは、広いことがうれしかったんですよ。子どもも2人いましたから」
そう話すのは、72歳の和夫さん(仮名)です。70歳の妻・明美さん(仮名)と2人で暮らしています。
夫婦が以前住んでいたのは、30代で購入した5LDKの戸建てでした。
1階にはLDKと和室、2階には夫婦の寝室と子ども部屋が2つ。子どもが学生だったころには、それぞれの部屋が必要でした。
しかし、長男、長女ともに30代までに独立。長女が家を出してから、すでに15年ほど経っています。
それでも、夫婦は住み替えを考えませんでした。住宅ローンは完済済み。駅までは徒歩15分ほどで、スーパーや病院にも困りません。
「わざわざ家を売って引っ越すほうが面倒だと思っていました」
子ども部屋もそのままです。学習机こそ処分しましたが、本棚には漫画や参考書、クローゼットには昔の衣類や旅行用品が残っていました。
帰省した子どもが泊まることもあるため、「客間として使えるから」と考えていたのです。
ところが実際には、長男一家が泊まるのは年に1、2回。長女は近くに住んでいるため、宿泊することさえありません。
ある日、明美さんが2階を掃除していたとき、夫に尋ねました。
「この部屋、最後に誰か使ったのいつだっけ?」
2人で考えても、すぐには思い出せませんでした。
それでも掃除は必要です。窓を開け、床に掃除機をかけ、布団を干す。庭の草木も手入れしなければなりません。
「若いころは何とも思わなかったんです。でも70歳を過ぎると、掃除機を持って階段を上がるのも面倒になってきて。夫婦2人なのに、どうして5部屋も掃除しているんだろうと思ったんですよね」
総務省『令和5年住宅・土地統計調査』によると、高齢者のいる夫婦のみの世帯では87.6%が持ち家に暮らしています。高齢者のいる世帯全体でも持ち家率は81.6%で、主世帯全体の60.9%を上回っています。長く住み続けてきた持ち家で高齢期を迎える世帯は多いことが分かります。
転機になったのは、給湯器の交換をしたことでした。業者から今後必要になりそうな外壁や屋根のメンテナンスについても説明され、和夫さんは初めて考えます。
「この家をあと20年維持するのかな」
修繕費を払えないわけではありません。ただ、夫婦2人には使い切れない広さを維持するために、これからも費用と手間をかける必要があるのか。その疑問から、住み替えを考え始めました。
