「お金は来年でも使えるけど」妻の一言で予約した9日間の旅
夫婦のお金に対する考え方が変わるきっかけになったのは、正彦さんが69歳のときでした。
学生時代から付き合いのあった友人が亡くなったのです。数ヵ月前まで連絡を取っていた相手でした。正彦さんは以前、その友人から旅行に誘われていました。
「昔の仲間で九州を回ろうという話があったんです。僕は『今年はいいよ。また来年行こう』と断りました」
特別な理由があったわけではありません。旅行代が十数万円かかると聞き、もったいないと思っただけでした。
もちろん、その旅行へ行っていれば何かが変わったとは限りません。それでも葬儀から帰宅した夜、正彦さんは妻にその話をしました。
すると恵子さんが、ぽつりと言いました。
「お金は来年でも使えるけど、できることは同じじゃないのかもね」
その言葉が残ったといいます。夫婦は初めて、これからのお金について「いくら残すか」ではなく、「何に使いたいか」から話すことにしました。
まず実現させたのが、以前諦めた北海道旅行です。
豪華な旅にしたわけではありません。ただ、日程を3泊に縮めず9日間取り、移動しやすい場所のホテルを選びました。旅行代は2人で約38万円。
「予約するときは、やっぱり高いなと思いましたよ。でも帰ってきて妻が『今度はどこに行こうか』と言ったんです。そのとき、こういうことのために貯めてきた部分もあったんだなと思いました」
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上で直近1年間に何らかの社会活動に参加した人のうち、生きがいを「十分感じている」または「多少感じている」と回答した割合は84.6%。活動に参加しなかった人より23.0ポイント高くなっています。
夫婦はその後、住宅の修繕や将来の医療・介護などに備える資金は残しながら、自分たちがやりたいことについては、金額だけを理由に先送りしないことにしました。
「貯金があったから安心して暮らせています。ただ、若いときと同じように、70歳になっても『将来のために』と言っていたんですよね」
老後資金は、多ければ使い切らなければならないものでも、一定額を残せば安心できるものでもありません。必要な金額は、年金収入や住居、健康状態、家族構成などによって変わります。
だからこそ、老後の資金計画では「いくら貯めるか」だけでなく、何のために貯めているのかを考えることも重要です。将来への備えを確保しながら、今だからできることにも使う。その両方を考えることが、長年築いてきた資産を生かすことにつながるでしょう。
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