「車がなくても暮らせる」夫婦が選んだ駅徒歩5分のマンション
「家を探していたときは、条件だけ見ればほぼ理想通りだったんです」
そう話すのは、72歳の明彦さん(仮名)です。70歳の妻・裕子さん(仮名)と2人で暮らしています。夫婦は60代まで、郊外にある築30年ほどの戸建てに住んでいました。
2人の子どもはすでに独立。夫婦の年金収入は月約27万円で、当時の預貯金や金融資産は約3,500万円ありました。
住み替えを考え始めたきっかけは、明彦さんが70歳を迎えたころです。夫婦とも元気でしたが、買い物や通院には車を使うことが多く、裕子さんは運転をしません。
「僕が運転できなくなったら、妻はどうするんだろうと思ったんです。元気なうちに、車がなくても暮らせる場所へ移ったほうがいいんじゃないかと」
夫婦が探したのは、駅から徒歩10分以内のマンションでした。
スーパーとドラッグストアが近く、病院へも公共交通機関で行けること。室内に大きな段差がなく、管理の負担も少ないこと。条件を一つずつ決めていきました。
国土交通省『令和5年住生活総合調査』によると、65歳以上の夫婦世帯が今後の住み替えで住宅周辺の環境について重視する点は、持ち家では「日常の買物などの利便」が43.2%で最も高く、「医療・福祉・介護施設の利便」が15.6%と続きます。高齢期の住み替えで、生活上の利便性を重視する人は少なくありません。
半年ほど探し、夫婦が選んだのは駅から徒歩5分ほどの中古マンションでした。
以前の戸建てを売却し、必要なリフォームをして入居。住み替えに伴う費用を支払った後も、老後資金としてまとまった預貯金を残すことができました。
実際、生活は便利になりました。スーパーまでは歩いて数分。電車に乗れば、大きな商業施設にも行けます。
明彦さんは車を手放しました。
「駐車場代もガソリン代もかからないし、家の周りの手入れもしなくていい。これは楽になったなと思いました」
ところが、半年ほどすると、裕子さんが夫にこんなことを言いました。
「私、こっちに来てから前より外に出てないかも」
明彦さんは意外に思いました。駅もスーパーも、以前よりはるかに近くなっています。しかし、裕子さんが言っていたのは「用事のための外出」のことではありませんでした。
以前の家では、週に一度、近所の友人とウォーキングをしていました。スーパーへ行けば顔見知りと立ち話をし、月に2回は近所の公民館で開かれる手芸の集まりにも参加していました。
その一つひとつを、裕子さんは住み替えの際に「また新しい場所で見つければいい」と考えていたのです。
