母が家を売らなかった理由
澄子さんの言う通り、年間約150万円がそのまま所得になるわけではありません。
予約サイトに支払う手数料のほか、リネン類や消耗品、光熱費なども必要です。清掃についても、毎回自分で行うのではなく、予約が続く時期は業者へ依頼しています。
設備が故障すれば修理費もかかります。
「年間150万円」と聞いた智也さんが最初に想像したほど、大きな利益が残るわけではありませんでした。それでも、年金とは別の収入源になっていることは確かです。
智也さんが「78歳でそこまでやって大変じゃないの?」と聞くと、母は笑いました。
「毎日やる仕事じゃないもの。予約がなければ何もしないし、無理な日は入れないようにしてるから」
住宅宿泊事業法による民泊では、年間の提供日数は180日以内です。また、届出住宅に人を宿泊させた日数や宿泊者数などについて、2ヵ月ごとの定期報告も必要になります。
澄子さんは予約の管理を自分で行い、スマートフォンで宿泊者からの問い合わせにも対応します。
一方、清掃や設備の修理など、自分では難しい作業は人に頼むことにしていました。
「全部自分でやったら続かないでしょう。できないことはお金を払ってお願いするの」
78歳で収入を得ていること自体も、極端に珍しいわけではありません。
内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、2025年の75歳以上の就業率は12.6%。65歳以上の就業者数は22年連続で前年を上回っています。75歳以上では働いていない人のほうが多いものの、仕事を続けている人も一定数います。
もっとも、澄子さん自身は民泊を「仕事」とはあまり考えていませんでした。収入以上にうれしいのは、長年使われていなかった家を維持できていることだといいます。
「空っぽの家って、行っても窓を開けて掃除して帰るだけでしょう。それが嫌だったの。誰かが泊まるなら、きれいにしておこうと思えるから」
売上の一部は固定資産税や家の修繕費として残し、残った分から友人との旅行や外食にも使っています。
智也さんは、母が年金と預貯金だけで静かに暮らしているものだと思っていました。
「知らなかったことには驚きましたけど、母からしたら、わざわざ報告することでもなかったんでしょうね。僕も『最近何してる?』とはあまり聞いていませんでしたから」
親子であっても、離れて暮らす期間が長くなれば、相手の日常をすべて把握しているとは限りません。
また、使わなくなった住宅の活用には、売却や賃貸、民泊などさまざまな方法がありますが、それぞれ手続きや税負担、管理の手間が異なります。特に民泊は、住宅宿泊事業法による届出や営業日数の上限に加え、自治体の条例なども確認する必要があります。
高齢になってから新しいことを始める場合も、すべてを自分で抱える必要はありません。何を自分で行い、何を人に任せるのか。体力や資金と相談しながら続けられる形を選ぶことが、長く無理なく取り組むための一つのポイントになるでしょう。
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