(※写真はイメージです/PIXTA)

子どもが独立した後も、家族で暮らしていたころと同じ住まいに夫婦2人で暮らし続ける家庭はあるでしょう。部屋数が多ければ、収納や来客時にも便利です。一方、今の生活に本当に必要な広さは、家族構成の変化とともに変わることがあります。思いがけない経験から、住まいへの考え方が変わることもあるようです。

「狭くて大変かもね」仕方なく始めた1LDKの仮住まいだが…

「狭い家に住みたいと思ったことなんて、一度もなかったんですよ」

 

そう話すのは、72歳の和彦さん(仮名)です。同い年の妻・久美子さん(仮名)と2人で暮らしています。

 

夫婦が長年住んできたのは、約90平方メートルの4LDKマンション。2人の子どもを育てた家です。

 

子どもたちはすでに独立し、現在の年金収入は夫婦で月約31万円。住宅ローンも完済しています。

 

子どもが家を出した後、それぞれが使っていた2部屋はほとんど使わなくなりました。

 

片方には季節外の衣類や家電、もう片方には子どもが置いていった本や昔のアルバム。来客時に使うこともありますが、普段は扉を開けない日がほとんどです。

 

それでも、夫婦は住み替えを考えたことがありませんでした。

 

「広くて困ることはないと思っていました。物も置けますし、子どもたちが帰ってきたら泊まる場所もありますから」

 

転機は、マンションの配管工事と自宅のリフォームが重なったことでした。工事期間中、夫婦は近くの賃貸マンションへ2ヵ月ほど移ることになります。

 

借りたのは約50平方メートルの1LDK。荷物の大半は元の家に残し、衣類や食器など、当面必要なものだけを持っていきました。

 

初日、久美子さんは室内を見回して言いました。

 

「2ヵ月とはいえ、やっぱり狭いね」

 

ところが1週間ほどすると、夫婦は思っていたほど不便を感じていないことに気づきます。

 

朝起きれば、寝室からリビングはすぐそこです。掃除機をかけるのも短時間で終わります。使う食器も限られているため、棚の奥から物を探すこともありません。

 

「元の家では、あれどこに置いたっけ、と探すことが結構あったんです。物を置く場所がたくさんあるから、逆にどこへしまったか分からなくなるんですよね」

 

和彦さんにも変化がありました。

 

以前は自室で本を読むことが多かったものの、仮住まいではリビングの窓際が定位置になりました。久美子さんがテレビを見ている横で本を読み、ときどき話をする。

 

「別々のことをしているんですけど、同じ部屋にいるんですよ。それが意外と嫌じゃなかった」

 

国土交通省『令和5年住生活総合調査』では、今後の住み替え意向がある65歳以上の夫婦世帯が住宅の質について重視する点として、持ち家では「高齢者への配慮(段差がない等)」が22.4%、「広さや間取り」が17.1%などとなっています。高齢期の住み替えでは、単純な広さだけでなく、これからの生活に合った住宅かどうかも検討材料になっています。

 

2ヵ月後、リフォームを終えた4LDKへ戻りました。

 

きれいになった自宅での生活は快適でした。それでも半年ほど暮らすうちに、夫婦は仮住まいをしていたころとの違いをたびたび意識するようになります。

 

食器棚には何年も使っていない大皿があり、クローゼットには着なくなった服。子ども部屋には、独立した子どもたち自身も忘れている物が残っています。

 

「1LDKにいたときは、物が少なくて不便なんじゃないかと思っていました。でも戻ってみたら、今度は『こんなに持っていたのか』と思ったんです」

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