月次で日本の賃金動向を把握できる唯一の指標「毎月勤労統計」
●毎月勤労統計で最も注目されるのは「現金給与総額」
●実質賃金は今では2種類発表されている
●日銀やエコノミストは共通事業所ベースの所定内給与を重視
厚生労働省が作成している毎月勤労統計は、月次で日本の賃金動向を把握できる唯一の統計です。労働者5人以上の事業所を対象に賃金、労働時間、雇用者数を調査しており、当該月の翌々月上旬に速報、下旬に確報が発表されます。
最も注目されるのは、労働者1人当たりの名目賃金に当たる「現金給与総額」です。これには、「所定内給与」(基本給)、「所定外給与」(残業代、休日出勤手当など)、「特別給与」(ボーナス)が含まれます。
現金給与総額(名目賃金)を消費者物価指数(CPI)で割ったのが「実質賃金」です。最近ではインフレが進行していることから、「物価上昇を上回る賃上げ」が実現しているかどうかという観点で、実質賃金の前年比上昇率がニュースでよく取り上げられます。
従来は「持家の帰属家賃を除く」CPIが実質賃金の算出に用いられていましたが、2025年3月分からは総合CPIで実質化した数字も同時に公表されるようになり、2つの実質賃金が併記されています。
帰属家賃とは「持家を借家とみなした場合支払われるであろう家賃」であり、実際の取引を伴いません。厚生労働省は、賃金の購買力を示すために帰属家賃を除くCPI、国際比較のために総合CPIを用いて実質賃金を算出していると説明しています。
実質賃金の上昇率は、賃金の伸びがインフレ率に追いつかなかったため、2025年は帰属家賃を除くCPIベースで-1.3%、総合CPIベースで-0.8%とマイナスでしたが、2026年に入って再びプラスに転換しました。
重要指標ではあるものの…毎月勤労統計の問題点
毎月勤労統計は重要な指標ですが、分析を行ううえでは問題もあります。
第一に、サンプルとなる事業所を頻繁に入れ替えているため(30 ~499人の事業所は1年ごとに3分の1、5~29人の事業所は半年ごとに3分の1を入れ替え)、前年比の変化が実際の賃金の変化によるものなのか、サンプルの入れ替えを反映したものかを厳密に区別することが困難です。特に、これは企業ごとに相違が大きい特別給与(ボーナス)について当てはまります。
第二に、サンプルの入れ替えによって、一般労働者(正社員)とパートタイム労働者の割合も影響を受けます。一般労働者の給与水準はパートタイム労働者を大きく上回るため(所定内給与で3倍以上)、パートタイム労働者の比率の変化は賃金の平均に影響を及ぼすことになります。
こうしたサンプルに関連した問題を取り除くため、日銀やエコノミストは「共通事業所」(前年と当該年でともに集計対象となった調査対象事業所)の一般労働者(正社員)の「所定内給与」のデータを利用しています。
日銀は「共通事業所」ベースの「所定内給与」に注目
ただし、一般労働者の所定内給与についても、日銀は2025年10月の『展望レポート』で、2010年代半ば以降に「働き方改革」が進み、有給休暇取得数が増加していることなどを反映して労働時間が減少していることから、「一人当たり所定内給与」が(一人当たり所定内労働時間から計算した)「時間当たり給与の上昇率」に比べて低くなりやすいことを指摘しています。
賃金は金融政策にとっても重要となっていますが、現在の毎月勤労統計にはまだ様々な問題があります。
安田佐和子
経済アナリスト
ストリート・インサイツ
代表取締役
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