築38年の戸建てを手放し…「今の自分たちに必要な家」
夫婦が住み替えを決めるまでには、半年ほどかかりました。子どもたちはすでにそれぞれ家庭を持っており、実家を引き継ぐ予定はありません。
そこで自宅を売却し、同じ市内にある中古マンションを購入することにしました。
選んだのは、駅から徒歩10分ほどの2LDKです。戸建てよりかなり狭くなります。
管理費や修繕積立金、駐車場代も毎月必要です。戸建てを売れば住居費がほとんどかからなくなる、というわけではありません。
和夫さん夫婦は売却代金だけで判断せず、住み替え後に毎月かかる費用を確認してから購入を決めました。
引っ越して最初に戸惑ったのは、物の多さです。戸建てから2LDKへ移るため、家具や衣類、食器などをかなり処分しました。
恵美子さんが育てていた植物も、気に入っている鉢植えだけを新居のバルコニーへ持っていきました。
「最初は庭がなくなるのが一番寂しいと思っていたんです。でも、実際に引っ越してみると、意外と平気でした」
変化を強く感じたのは、最初の春です。
暖かくなっても、草は伸びません。休日の朝に窓の外を見て、「今日は庭をやらなきゃ」と考えることもなくなりました。
ある土曜日、夫婦は朝食を食べながら「今日はどうする?」と話し、そのまま電車で美術館へ出かけました。
「以前なら、天気がいい日は『庭をやるチャンスだ』と思っていたんですよ。それが今は『どこへ行こうか』になりました」
外食の回数も増えました。
恵美子さんは以前から興味があった市民講座にも通い始めています。和夫さんも月に数回、電車で趣味の写真を撮りに出かけるようになりました。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』では、高齢者の住居形態は「持家(一戸建て)」が76.2%と最も多く、「持家(分譲マンション等の集合住宅)」は8.3%でした。戸建てで暮らす高齢者は多く、どの住まいが適しているかは、家の状態や家族構成、本人の希望によって異なります。
「戸建てに住んだ38年間を後悔しているわけではありません。子どもが小さいころは、この家でよかった。でも、73歳の私たちに必要な家は、30代のころとは違ったんでしょうね」
住まいに求めるものは、家族構成や年齢によって変化します。庭や広い部屋が生活を豊かにしてくれる時期もあれば、その維持に負担を感じる時期もあるでしょう。
戸建てを手放してマンションへ移ることが、すべての人に適しているわけではありません。ただ、住み慣れた家だからという理由だけで維持するのではなく、手入れにかかる時間や費用、これからその家でどんな生活を送りたいのかまで含めて考えることも、高齢期の住まいを選ぶうえで大切でしょう。
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