(※写真はイメージです/PIXTA)

年齢を重ねてから住まいを選び直す際、交通の便や安全性に加え、人との交流を期待する人もいるでしょう。食堂やラウンジがあり、入居者向けのイベントも開かれていれば、新しい知り合いができる生活を思い描くかもしれません。ところが、そうした環境に移った後、期待していた暮らしとの違いを感じるケースもあります。

「待っているだけでは変わらない」と気づいて

ある日の夕食時、久美子さんは食堂で何度か見かけた女性と隣の席になりました。顔を合わせれば挨拶をする程度の相手です。

 

その日は女性が食べていた料理を見て、「それ、おいしいですか?」と久美子さんから声をかけました。

 

そこから話が続き、互いに一人暮らしであることや、同じ時期に入居したことが分かりました。

 

「それまで私は、誰かから話しかけてもらうのを待っていたんだと思います。自分から声をかけたのは、そのときが初めてでした」

 

後日、館内で再会すると、今度は相手から声をかけてくれました。それだけの出来事でしたが、久美子さんには大きな変化だったといいます。

 

翌月には、これまで避けていた館内の体操教室にも参加しました。

 

毎回同じメンバーが集まるため、何度か顔を合わせるうちに、「今日は寒いですね」「来週も来ますか」と話す相手が増えていきました。

 

内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上で直近1年間に何らかの社会活動へ参加した人のうち、生きがいを「十分感じている」または「多少感じている」と答えた割合は84.6%で、いずれの活動にも参加しなかった人より23.0ポイント高くなっています。これは社会活動への参加そのものが生きがいを生むと因果関係を示すものではありませんが、両者には関連がみられます。

 

久美子さんにも、いわゆる「親友」が何人もできたわけではありません。

 

それでも今では、食堂へ行けば挨拶をする人がいて、体操教室の日には顔なじみと少し話をします。ときには食事の後、そのままラウンジで30分ほど話すこともあるそうです。

 

「最初は、シニアマンションならみんな仲良くしているものだと思っていました。でも、考えてみれば普通のマンションと同じで、いろいろな人がいますよね。一人でいたい人だっている。私は私で、自分から何もしないのに『友達ができない』と思っていたんです」

 

内閣府『令和6年版高齢社会白書』で紹介された調査では、高齢期の住まいや地域の環境について、女性は男性より「親しい友人や知人が近くに住んでいること」を重視する割合が高いという結果も示されています。また、地域に住み続けるために「近所の人との支え合い」が必要だと考える人は半数を超えています。

 

シニア向け住宅にもさまざまな形態があり、交流の機会やサービスの内容は物件によって異なります。また、共用施設やイベントが充実していても、どの程度参加するかは本人次第です。

 

住み替えによって、買い物や家事の負担を軽くできることはあります。一方、人との付き合いは、住所を変えただけで自動的に生まれるものではありません。住まいを選ぶときには設備や立地だけでなく、自分がそこでどのような一日を送りたいのか、用意された交流の機会をどのように利用したいのかまで想像しておくことも大切でしょう。

 

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