年金月8万円でも「大丈夫」…息子が知らなかった母の仕事
「母は昔から働くのが好きでした。でも、80歳になった今も仕事をしているとは思っていなかったんです」
そう話すのは、54歳の健太さん(仮名)です。
母の澄子さん(仮名・80歳)は、夫を数年前に亡くしてから一人暮らし。住宅ローンを完済した戸建てに住み、年金は月約8万円です。
健太さんは車で1時間半ほど離れた場所に妻と暮らしています。母とは月に数回電話をし、数ヵ月に一度は実家を訪ねていました。
年金額が多くないことは以前から知っていたため、「生活費は大丈夫なのか」と尋ねたこともあります。そのたびに澄子さんは、「そんなに使わないから大丈夫よ」と答えていました。
ある日、健太さんが実家を訪れると、普段は閉まっている和室のふすまが開いていました。
中には反物や着物が並び、作業台の上には裁縫道具があります。
「こんなに着物持ってたっけ?」
そう聞くと、母は笑いました。
「私のじゃないよ。お客さんの」
そこで初めて、健太さんは母が今も和裁の仕事を続けていることを知ります。
澄子さんは20代のころに和裁を習い、その後は自宅で着物の仕立てを請け負っていました。子育て中は仕事量を減らし、50代以降に再び依頼を増やしたそうです。
70代になると新しく仕事を広げることはしなくなりましたが、昔から付き合いのある呉服店や顧客から、仕立て直しや寸法直しなどの依頼が入ります。
「もう仕事なんてしてないと思ってたよ」
「聞かれなかったから言わなかっただけよ。毎日やってるわけじゃないし」
澄子さんにとって、それは息子にわざわざ報告するようなことではなかったようです。
健太さんがさらに驚いたのは、その収入でした。依頼が少ない月もある一方、仕事が重なる時期には売上が月10万円を超えることもあるといいます。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、2024年の労働力人口比率は65~69歳で54.9%、70~74歳で35.6%、75歳以上でも12.2%。75歳以上の割合も2015年以降、上昇しています。80歳という年齢で働く澄子さんは多数派ではありませんが、高齢になっても仕事に関わる人は一定数います。
ただ、健太さんには一つ疑問が残りました。
「年金もあるのに、80歳でそこまで働かなくてもいいんじゃない?」
母から返ってきた答えは、健太さんが想像していたものとは少し違いました。
