「一人でも寂しくなさそう」シニアマンションを選んだ理由
「見学したとき、ラウンジで何人かがおしゃべりしていたんです。ここなら一人で入っても楽しそうだと思いました」
そう話すのは、73歳の久美子さん(仮名)です。
夫とは5年前に死別。しばらくは郊外の戸建てで一人暮らしを続けていました。
年金は月約16万円。夫から引き継いだものを含めて預貯金もあり、住宅ローンはありませんでした。
住み替えを考え始めたのは72歳のころです。
戸建ては駅から遠く、買い物には車を使っていました。2階にはほとんど上がらなくなり、庭の手入れも負担になっています。
車をいつまで運転するか考えたこともあり、長女からも「元気なうちに住みやすいところを探したら」と勧められました。
いくつか見学した末、久美子さんが選んだのは、駅やスーパーに近いシニア向け分譲マンションでした。
段差が少なく、緊急時の対応サービスもあります。さらに久美子さんが気に入ったのが、入居者が利用できる食堂やラウンジでした。
体操や趣味のイベントも定期的に開かれています。
「普通のマンションより、同年代の人と知り合いやすいだろうと思ったんです。夫が亡くなってから家で一人で食べることも増えていたので、食堂があるのもいいなと思いました」
戸建てを売却し、住み替えた当初は新しい生活そのものが新鮮でした。
スーパーへは歩いて行けます。庭仕事はなくなり、室内も以前よりコンパクトです。
夕食を作るのが面倒な日は食堂へ行けばいい。そこで顔見知りも増えていくだろうと考えていました。
ところが、数ヵ月が過ぎても、想像していたような付き合いはなかなか生まれませんでした。
食堂へ行けば、もちろん人はいます。ただ、すでに何人かでテーブルを囲んでいる人もいれば、一人で静かに食べている人もいます。
久美子さんも最初は一人で席に座りました。隣になった人と「今日は暑いですね」と話すことはあっても、食事が終われば「ごちそうさまでした」とそれぞれの部屋へ戻ります。
「見学のときに見た人たちは、きっと以前から仲がよかったんでしょうね。自分も住み始めれば、その輪の中に自然に入れるような気がしていたんです」
イベントにも一度参加しました。
しかし、初対面の人に自分から話しかけるのが得意ではない久美子さんは、終わるとそのまま部屋へ戻りました。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上の人の近所付き合いでは、「会えば挨拶をする」が84.6%、「外でちょっと立ち話をする」が61.3%。一方、「お茶や食事を一緒にする」は16.0%、「趣味をともにする」は11.9%にとどまっています。住まいが近いからといって、必ずしも深い付き合いにつながるわけではないことがうかがえます。
久美子さんも、住み替えて半年ほど経ったころ、ようやく自分が期待していたものに気づいたといいます。
「住まいを替えれば、人付き合いまで一緒に変わると思っていたんです」
