(※写真はイメージです/PIXTA)

親が高齢になっても、実家を「いつでも戻れる場所」と考えている子どもはいるでしょう。しかし親自身にも生活があり、年金や貯蓄には限りがあります。子どもの生活が苦しくなったとき、どこまで支えるのか。同居や金銭援助をめぐる考え方の違いが、親子の関係を大きく変えることもあります。

「あなたが育った家だけれど」母が同居を拒んだ理由

「ここには住ませません」

 

健太さんは冗談だと思ったようでした。

 

「何言ってるの。自分の実家だよ?」

 

「あなたが育った家ではあるけれど、今ここで生活しているのは私です」

 

春子さんは数年前から、家そのものを手放すことも考えていました。

 

階段の上り下りが負担になり、庭の手入れも難しくなっています。今後さらに一人暮らしが難しくなれば、高齢者向け住宅へ移る可能性もあります。そのためにも、残った貯蓄をできるだけ守りたいと考えていました。

 

健太さんは納得しませんでした。

 

「たった数ヵ月だよ。それすら助けてくれないの?」

 

「前にも助けました。でも、私はもう80歳です。今度は自分の生活を守らないといけません」

 

しばらく言い合いが続いたあと、健太さんは「そんな親だと思わなかった」と言いました。そこで春子さんも感情的になりました。

 

「お金を出して、住むところも用意し続けないと親じゃないと言うなら、親子の縁は今日で終わりです」

 

その夜、健太さんは実家を出ました。その後しばらく連絡はありませんでしたが、数ヵ月後、「仕事が決まった」と短いメッセージが届いたといいます。

 

春子さんは返信しました。

 

「よかったね。体に気をつけて」

 

今も、あの日の言葉が強すぎたとは思っているそうです。それでも、同居を断ったことについては後悔していません。

 

「息子が嫌いだから断ったわけではありません。この年齢になって、あと何年暮らすのか分からない。そのためのお金まで使ってしまうことのほうが怖かったんです」

 

子どもが困っていれば助けたいと思う親は少なくないでしょう。しかし、援助する側にも生活があります。特に高齢期には収入を増やすことが難しいケースもあり、一度減った老後資金を取り戻せるとは限りません。

 

家族だから無条件に受け入れるのではなく、自分の生活を維持できる範囲を決めること。春子さんにとってそれは、息子との関係を断つためではなく、自分自身の老後を守るために必要な線引きでした。

 

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