「あなたが育った家だけれど」母が同居を拒んだ理由
「ここには住ませません」
健太さんは冗談だと思ったようでした。
「何言ってるの。自分の実家だよ?」
「あなたが育った家ではあるけれど、今ここで生活しているのは私です」
春子さんは数年前から、家そのものを手放すことも考えていました。
階段の上り下りが負担になり、庭の手入れも難しくなっています。今後さらに一人暮らしが難しくなれば、高齢者向け住宅へ移る可能性もあります。そのためにも、残った貯蓄をできるだけ守りたいと考えていました。
健太さんは納得しませんでした。
「たった数ヵ月だよ。それすら助けてくれないの?」
「前にも助けました。でも、私はもう80歳です。今度は自分の生活を守らないといけません」
しばらく言い合いが続いたあと、健太さんは「そんな親だと思わなかった」と言いました。そこで春子さんも感情的になりました。
「お金を出して、住むところも用意し続けないと親じゃないと言うなら、親子の縁は今日で終わりです」
その夜、健太さんは実家を出ました。その後しばらく連絡はありませんでしたが、数ヵ月後、「仕事が決まった」と短いメッセージが届いたといいます。
春子さんは返信しました。
「よかったね。体に気をつけて」
今も、あの日の言葉が強すぎたとは思っているそうです。それでも、同居を断ったことについては後悔していません。
「息子が嫌いだから断ったわけではありません。この年齢になって、あと何年暮らすのか分からない。そのためのお金まで使ってしまうことのほうが怖かったんです」
子どもが困っていれば助けたいと思う親は少なくないでしょう。しかし、援助する側にも生活があります。特に高齢期には収入を増やすことが難しいケースもあり、一度減った老後資金を取り戻せるとは限りません。
家族だから無条件に受け入れるのではなく、自分の生活を維持できる範囲を決めること。春子さんにとってそれは、息子との関係を断つためではなく、自分自身の老後を守るために必要な線引きでした。
【関連記事】
■月20万円もらえるはずが…45歳・サラリーマン「ねんきん定期便」に抱いた違和感。「年金ルール」知らずにそのまま20年…65歳で受け取ることになる年金額に唖然「何かの間違いでは?」
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

