20年越しに噴き出してきた怒り
20年前、いわゆる「授かり婚」だった美紀さん夫婦は、当時貯金もほとんどなく、結婚式は挙げない予定でした。
しかし、和子さん夫婦がよかれと思い、結婚資金として500万円を援助した結果、式を挙げざるを得なくなったのです。夫婦は「せっかくのお祝い事だから」と、雄太さんですら誰だかわからない遠縁の親戚まで呼び寄せ、盛大な式を執り行いました。
一方、若くして父と死別し、母と二人で支え合いながら暮らしてきた美紀さんは、経済的に余裕のない実家に援助を求めることはできませんでした。
もともと、美紀さんは和子さんに感謝していましたが、式の準備中、和子さんは引き出物や雄太さんの衣装に細かく口を出し、果てには美紀さんのドレスにまで和子さんの意見が大きく反映されることに。
それだけならばまだ感謝が上回っていた美紀さんでしたが、どうしても我慢ならなかったのは、「うちにお嫁に来るんだから、ちゃんとした格好をしてもらわないとね」「みなさんに恥ずかしくない式を挙げないとね」といった、和子さんが悪気なく口にする言葉の数々です。
決定打となったのは、美紀さんの母親が、和子さん夫婦へ資金援助の礼を述べた際の言葉でした。
「いいんですよ。最初からお母さんには難しいと思ってましたから」
「子どもの結婚式のお金くらい出してあげられないとかわいそうですからね」
和子さんに悪意はなかったものの、自分の母を貧乏人扱いし、「お金を出せない親」と見下す和子さんの発言は、美紀さんにとって到底許しがたいものでした。それでも、「あのときお金を出してもらった」という負い目から自分を諫めていた美紀さんでしたが、団らんの場で何気なく発された和子さんの無邪気な言葉に、20年越しの怒りが噴き出してしまったようです。
お金による無意識の束縛
親が子どもの結婚や教育費、孫の進学などを資金的に援助をすること自体は、決して悪い取り組みではないでしょう。十分な老後資金を確保したうえで、余裕資金を子どもや孫のために活用するのは、資産の有意義な使い方の一つといえます。
しかし注意しなければならないのは、「本人たちが求める援助なのか?」という点です。
「こんなに出してあげた」「孫のためにこれだけお金を使った」といった気持ちが強くなっていくと、子どもや孫のためでなく、親自身の価値観を押し付ける手段へ変貌しかねません。お金を受け取った側も、次第にその援助を「ありがたいもの」ではなく、「自分たちを束縛するもの」と感じるようになることも。
和子さんのケースも同様です。問題の本質は、500万円を援助した行為そのものではなく、お金を出したことで、本人たちの意思を尊重せず、自身の意向を優先してしまったことです。
親にとって子どもはいつまでも子どもですが、雄太さんも美紀さんも、すでに自立した大人です。式を挙げるかどうかは本人たちの意思に任せるべきだったでしょうし、仮にお金を援助するのであっても、式の内容に口出しすべきではなかったはずです。
お金が絡むと関係性に影響も
お金は人生の選択肢を増やし、ときには誰かを助けてあげることもできます。しかし、使う人の意識次第で相手を縛りつけ、関係性を壊してしまうこともあります。資金の出し方や関わり方を見直すことも、人生において大切なマネープランニングの一環です。
結婚して家庭を持てば親から経済的に独立するイメージが強いものの、実際には結婚や出産、子育てといった節目で親や祖父母から支援を受けるケースは珍しくありません。特に結婚式や新婚生活の準備にはまとまった費用を要するため、援助は非常に有難いものでしょう。
しかし、援助する側にもその後の生活がある事実を忘れてはいけません。資金計画を吟味したうえで援助を行うこと、そして渡したお金の使い道は子どもや孫に委ねる姿勢が肝要です。親の満足ではなく、相手の立場に立ったお金の使い方こそが、良好な親子関係を維持する鍵となります。
小川 洋平
FP相談ねっと
ファイナンシャルプランナー
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