今回は、リフォームの設計と監理を「建築士」に依頼するメリットについて見ていきます。※本連載は、マンション維持管理支援・専門家ネットワークの編著書『Q&Aマンションリフォームのツボ―管理組合・居住者が知っておくべきトラブル予防・解決の必須知識』(民事法研究会)の中から一部を抜粋し、リフォームにまつわるトラブルを防止し、マンション全体の資産価値の向上にもつながるリフォームの基礎知識を具体例とともに紹介します。

リフォームは素人でも設計・工事が可能!?

リフォームの設計と監理をリフォーム業者ではなく建築士(設計事務所)に依頼するメリットを教えてください。

 

建築士(設計事務所)に依頼することで、一般的にはレベルの高いリフォームになると思います。依頼者の要望を聞き、予算やマンションの構造、法令の制限などの条件のもとで、一番よいメニューを示してくれる専門家が建築士だからです。また、工事の品質が確保できます。

 

(1) 資格・登録がなくても工事は可能

工事費が1500万円以上で建築一式工事の場合には、工事を行うには建設業法の登録が必要です。確認申請を必要とするようなリフォームの場合は建築士の資格が必要となる場合があります。しかし、マンションのリフォームの場合は、そこまで大がかりな工事は少ないでしょう。つまり、全くの素人でも設計も施工も可能ということになります。名の知れたショッピングセンターで営業しているリフォーム業者であっても、十分な専門知識を有していない場合があることを知っておく必要があります。

 

実際にあった事例ですが、過去に2000戸の中古物件の設計を行ったと豪語する不動産会社が行ったリフォームでは、台所の位置を下階寝室直上に移動したことによる下階からの騒音苦情や、排水管の延長による排水能力不足を引き起こしました。専門の建築士であれば行わなかった設計でしょう。

 

専門知識のある建築士が入れば、このような建物の上下階の問題や、排水管の勾配の知識などは間違いがないと思います。総合的にみるのも建築士の役割です。

第三者の専門家といえる「建築士」を選ぶ

(2) 監理業務
また、建築士の業務の中には「工事監理」という業務があります。これは設計図書どおりに施工が行われているかを検査し、不具合があれば是正を指摘し、施主に対して報告を行う業務です。どのような設計をしようとも、工事がそのとおりに行われなければ問題になります。そうならないために必要なのがこの「工事監理」であり、実は大変重要な業務です。工事監理においては施工業者に厳しく接する必要があるため、リフォーム業者とつながりのない第三者に工事監理をしてもらうことが必要であり、すべてをリフォーム業者に一任することは危険です。設計から工事監理までを建築士に依頼することにより、不安のない、希望に添ったリフォームが可能になります。

 

(3) 第三者の専門家への依頼

なお、不動産会社やリフォーム業者の設計部門には建築士がいる場合も多いですが、基本的には設計するというより売る部門に属しています。建築士や建築施工管理技士というのは単なる資格名であって本人の技量を表しているのではなく、資格があってもリフォームの専門知識を有しているとは限りません。ここで述べる建築士とはマンションについてハード面もソフト面も熟知している第三者の専門家を示しています。

 

施工会社ではない設計事務所に依頼しようとした場合、探す手段は「紹介」か「インターネット検索」、「リフォーム雑誌の記事・広告」になると思われます。選ぶ際にはどれだけの経験があるのか確認してください。新築しか行っていない事務所は避けるのが無難です。なお、マンション維持管理支援・専門家ネットワークでもご相談を受けています。

 

一般的な手続・作業の流れは、「①施主より依頼・簡単なヒアリング→②現地調査・施主希望調査→③プランニング・複数回の打合せ・基本設計→④実施設計」となります。これらは、基本的には契約を行ってから作業を始めてもらうのが理想です。ただし、打合せの中でこの設計事務所では進めるのが難しいと判断したときのため、契約書に作業の途中で取りやめにする場合の規定をしっかりと記載しておく必要があります。

 

また、上記①・②あたりまでは未契約でも作業を進めることがあります。その場合は、どこまでがサービスで、どこからが有償になるのかを遠慮なく確認して、覚書をつくって両者で控えておきましょう。施工部門主体のリフォーム業者は③程度まで未契約で進む場合もありますが、その後、取りやめた場合にトラブルになるため、この覚書が重要になってきます。

 

リフォーム業者と設計事務所を比較した場合、前者は工事費で利益を得るため、設計料は無償であったり、工事費の中に含むものとすることがありますが、設計事務所は「設計」「監理」を専門に行うため、一般的には工事費以外にこの費用がかかることを念頭においておく必要があります。契約時に一部費用を支払うことが必要な場合もあります。

本連載は、2015年12月1日刊行の書籍『Q&Aマンションリフォームのツボ―管理組合・居住者が知っておくべきトラブル予防・解決の必須知識』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

Q&Aマンションリフォームのツボ―管理組合・居住者が知っておくべきトラブル予防・解決の必須知識

Q&Aマンションリフォームのツボ―管理組合・居住者が知っておくべきトラブル予防・解決の必須知識

民事法研究会

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