「何に投資するか」だけでは資産は守れない
どれほど優れた金融商品を保有していても、その国の政治や法制度が不安定になれば、資産価値は大きく揺らぎます。インフレや通貨安、金融規制の変更、政権交代による制度変更など、投資家自身ではコントロールできない「国家リスク」が存在するからです。
そのため世界の経営者や投資家は、株式や債券を分散するだけでなく、国家リスクそのものも分散しています。海外に銀行口座や不動産を保有したり、複数の国に生活や事業の拠点を持ったりするのも、その考え方の延長線上にあります。
では、世界の投資家はどのような国を資産の置き場所として評価しているのでしょうか。
その答えを考えるうえで示唆に富むのが、南米の小国・ウルグアイです。ウルグアイへの出張が決まった時、「南米=犯罪が多い」という先入観があり、治安に対してかなり身構えていました。しかし、首都モンテビデオを歩いた初日から、その先入観は大きく崩れました。
街には落ち着いた空気が流れ、海岸沿いでは人々が散歩や食事を楽しんでいました。警察官の姿をそれほど多く見かけるわけではないのに、不思議と安心して歩くことができたのです。人と資産を引き寄せ続ける理由があります。この国には、「国家そのものが資産になる」という考え方を理解するヒントがありました
「安全だから移住した」という一言
首都・モンテビデオの海岸沿いにある小さなレストランで、オーナーの女性がこう話してくれました。
彼女はウルグアイ人ではなく、ブラジルから移住してきた女性でした。
「この国は安全で、教育もしっかりしている。だから移住してきたの。物価は高いけれど、それだけの価値があるわ」
ブラジルは南米最大の経済大国ですが、都市部では治安への不安を抱える人も少なくありません。そのため、安全で落ち着いた生活環境を求めてウルグアイへ移住する人は珍しくないといいます。
印象的だったのは、彼女が収入や税金ではなく、「安全」と「教育」を真っ先に挙げたことでした。
資産を守るというと、お金を増やすことばかり考えがちです。しかし、家族が安心して暮らせる環境を選ぶことも、長期的な資産防衛の重要な要素です。世界では、こうした「生活の質」も資産価値の一部として捉えられています。
「安心」は制度がつくり出す
モンテビデオを歩いていて驚いたのは、警察官の姿をほとんど見かけなかったことです。
もちろん、ウルグアイにも犯罪はあり、近年は治安悪化も課題になっています。それでも、外国人居住者の多いプンタ・カレータス地区では、夜でも人々が散歩や食事を楽しむ落ち着いた雰囲気があり、南米では政治的・社会的に安定した国として高く評価されています。
こうした安心は、暮らしやすさだけではありません。事業を継続しやすく、不動産価値が維持され、将来への見通しを持って生活できる環境そのものが、長期的な資産価値を支えています。
人と資産を引き寄せるウルグアイの「安心」
ウルグアイは南米でも有数の物価の高い国として知られています。外食や家賃、日用品など、多くの生活コストは隣国アルゼンチンやブラジルを上回り、「南米一の高物価」と紹介されることもあります。
一般的には、生活コストが高い国は移住先として敬遠されがちです。しかし、ウルグアイでは事情が異なります。周辺国から移住する人は少なくなく、制度の安定性を評価する経営者や投資家からも注目を集めています。
彼らが求めているのは、低い税率でも安い生活費でもありません。
安全な街で暮らせること、安心して子どもを育てられること、将来も法制度が大きく変わらないこと――。そうした「安心」そのものが、この国の価値になっているのです。
では、人口約350万人の小国は、なぜそのような社会を築くことができたのでしょうか。
小国だからこそ「制度」を磨いた
ウルグアイはブラジルとアルゼンチンという二つの大国に挟まれた人口約350万人の小国です[図参照]。
現地では「私たちは小さな国だから」という言葉を何度も耳にしました。しかし、その言葉に悲観的な響きはありません。
軍事力や資源で競えないからこそ、法制度や民主主義、教育、社会保障を磨き、「安心して暮らせる国」という価値を築いてきたのです。
2000年代初頭にはアルゼンチン危機の影響で金融危機も経験しましたが、その後も制度への信頼を積み重ね、国としてのブランドを高めてきました。その積み重ねが、高い物価にもかかわらず、人も資産も集まる理由になっています。
日本人が学ぶべき「国家も資産」という発想
日本でも新NISAやiDeCoの普及により、資産形成への関心は高まっています。しかし、その議論の多くは「何に投資するか」に集中しており、「どの国の制度の下で資産を保有するか」という視点は、まだ十分に浸透しているとはいえません。
もちろん、多くの日本人が海外へ移住すべきだという話ではありません。重要なのは、資産を支えるのは金融商品だけではなく、政治や法制度、治安、教育、金融システムといった社会の基盤でもあると理解することです。
ウルグアイは、低い税率で人や資産を引き寄せている国ではありません。長い時間をかけて信頼できる制度と安心して暮らせる社会を築いた結果として、人も資産も集まる国になりました。
世界の投資家は、金融商品だけでなく、「国家リスク」も分散しています。南米の小国ウルグアイが教えてくれるのは、これからの資産防衛に必要なのは、高い利回りを追い求めることだけではないということです。
信頼できる制度、安全な社会、そして将来への予見可能性――。「国家そのもの」の価値も資産の一部として考えること。それこそが、世界標準の資産防衛の考え方なのではないでしょうか。
本名 正博
マネージングディレクター
希合KYGO
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