妻の不安はむしろ「夫と一緒に過ごす時間」
雅子さんが不安を感じていた理由は、お金だけではありません。「夫が家にずっといる」――むしろこれこそが、拒否感の根幹にあったのです。
長年、幸一さんは仕事中心の生活を送っていました。平日は帰宅が遅く、休日もゴルフや接待で不在がち。一方で、週3日・短時間勤務で家にいる時間を自由に楽しんでいた雅子さん。夫婦それぞれに生活リズムが確立されていました。
そのため雅子さんは、「毎日家にいるようになったら、お互いにストレスが増えるかもしれない」という不安も抱えていたのです。65歳になれば年齢的に仕方がないと割り切れても、それが5年も前倒しになることは避けたかった。これが彼女の本音でした。
夫婦の話し合いで決めた着地点
幸一さんが求めていたのは、単に仕事を辞めることではありません。長年仕事中心だった人生の中で、「これから何のために生きるのか」を考え始めていたのです。一方、雅子さんが求めていたのは「目減りしていく資産への安心」と「自分の時間の確保」でした。
どちらが正しいという話ではありません。見ている方向が違っていただけなのです。その後、夫婦は話し合いを重ねました。
結果として、幸一さんは60歳で完全退職するのではなく、週3日勤務の再雇用を選択することに決めました。収入は年250万円程度に減りますが、自由な時間も増えます。さらに、65歳から受け取れる年金も年間6万円程度増えます。
幸一さんは、雅子さんも無理に働き続ける必要はないと考えていましたが、雅子さん自身は今のバランスが気に入っていました。お互いに休みをずらすことで、自分の時間もある程度キープできて、さらに老後資金への不安も少なくなります。
互いの胸の内を明かし合ったことで、双方の希望を叶える最適な「中間地点」を見つけることができたのです。

