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トランプ劇場と超富裕層課税 増税か、減税か――税制が映し出すアメリカの真実
奥村眞吾(著)+ゴールドオンライン(編集)
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プラットフォームの台頭と「1099-K」の壁
米国には、日本にはない独特の所得捕捉の仕組みがあります。その代表例が「Form 1099」と呼ばれる情報申告制度です。米国で確定申告を行う個人事業主や投資家は、一定額以上の報酬や支払いについて、その内容を税務当局であるIRS(内国歳入庁)へ報告しなければなりません。
例えば、米国国内で不動産投資を「事業」として行う個人が、修繕業者や管理業者などの独立事業者に対して年間600ドル以上の報酬を直接支払った場合、支払者は「Form 1099-NEC」などの書類を発行し、受取人とIRSの双方に提出する必要があります。この仕組みによって、IRSは「誰がいくら受け取ったのか」を第三者情報として事前に把握できます。
こうした取引当事者間による第三者報告制度は、税務コンプライアンスを高めるうえで極めて重要な役割を果たしてきました。しかし近年、税務当局にとって新たな焦点となっているのが、ギグエコノミーの急速な拡大です。
ライドシェア、民泊、フリーランス仲介、オンライン販売などのプラットフォームを利用して収入を得る人々は年々増加しています。UberやLyftのドライバー、Airbnbのホスト、オンラインマーケットプレイスの販売者などがその代表例です。
これらの取引においては、従来の当事者間の報告制度とは異なり、取引を仲介する決済プラットフォーム(第三者決済ネットワーク)側が、利用者の売上データをIRSへ報告する「Form 1099-K」という制度が設けられています。
しかし、この1099-Kは長らく「年間総決済額2万ドル超、かつ取引件数200件超」という非常に高い基準が設定されていました。そのため、多くの副業ギグワーカーや小規模な販売者がIRSへの情報報告の対象外となっていました。
実際、IRSは以前から「第三者による情報報告の有無」が申告率に劇的な影響を与えることを公表しています。給与所得(W-2)のように源泉徴収や情報報告が行われる所得では申告漏れがわずか数%にとどまる一方、情報報告が行われない所得では、申告漏れが大幅に増加する傾向があります。つまり、高すぎる報告基準が、ギグエコノミーにおける巨大な「税の抜け穴」となっていたのです。
制度改正を阻む「現場の混乱」
こうした状況を受けて、アメリカ政府は2021年の法改正により、1099-Kの報告対象を一気に「年間600ドル超(件数制限なし)」へと引き下げる方針を打ち出しました。少額のギグワークやオンライン販売の所得を包括的に捕捉しようという狙いです。
もっとも、この劇的な変更は容易には進みませんでした。基準を600ドルにまで下げると、数千万人のギグワーカーだけでなく、フリマアプリで私物を売却しただけの一般市民にまで大量の1099-Kが送付されることになり、納税者や決済プラットフォーム、そしてIRSの現場が大混乱に陥ることが予想されたためです。
IRSは実務上の配慮からこの基準引き下げの適用を何度も延期し、移行期間として段階的な緩和基準(5,000ドルなど)を設けるなど、実際の運用開始をめぐっては紆余曲折をたどってきました。
また、仮に情報報告の対象が拡大し、売上が可視化されたとしても、問題がすべて解決するわけではありません。ギグワーカーや個人事業主が適切に申告するためには、売上だけでなく、事業にかかった必要経費の管理や、自営業者向けの社会保障税(Self-Employment Tax)の計算など、複雑な税務処理を自力で行わなければなりません。
米国では、自営業者が確定申告書に添付する「Schedule C」を用いて事業所得を計算しますが、その作成には一定の税務知識が必要です。税務リテラシーが十分でない場合、売上だけを見てパニックになったり、誤った申告や無申告に繋がったりするリスクは常に付きまといます。

