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トランプ劇場と超富裕層課税 増税か、減税か――税制が映し出すアメリカの真実
奥村眞吾(著)+ゴールドオンライン(編集)
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テスラ社は「税金を払っていない企業」なのか
イーロン・マスク氏の所得税の問題が注目を集めると、必ずと言ってよいほど浮上するのが「富裕層優遇」という言葉。その延長線上で語られるのが、ドナルド・トランプ大統領による大規模減税政策です。本当に、アメリカの税制は富裕層だけを優遇する仕組みなのでしょうか。
イーロン・マスク氏のテスラ社については、「連邦法人税をほとんど支払っていない」「赤字を理由に課税を免れてきた」と報道されることがしばしばあります。
しかし、これを単純に「不公平」と断じるのは正確ではありません。
テスラ社は長年にわたり研究開発費に巨額の投資を行い、会計上は赤字または極めて低い利益水準が続いていました。アメリカの法人税制では、赤字は将来の黒字と相殺する「繰越欠損金」として扱われます。
これはテスラ社に限った話ではなく、アマゾンやグーグル、メタ(旧フェイスブック)といった巨大IT企業も、成長期には同様の会計処理を行ってきました。
ストックオプションが生む「課税のタイミング」
イーロン・マスク氏個人の税金についても、誤解されやすい点があります。
マスク氏の報酬の大部分は、給与ではなくストックオプションです。ストックオプションは、付与された段階ではなく、実際に行使した時点で初めて所得として課税されます。
マスク氏が所得税を支払っていなかったとされた理由の一つは、この「課税のタイミング」にあります。
実際には、2021年にマスク氏は大規模なストックオプションを行使し、結果として史上最大規模といわれる納税額を支払っています。
つまり、「払っていない年」だけを切り取ると誤解を生みやすい構造になっているのです。
トランプ減税の本質は「富裕層優遇」だった?
2017年に成立した「トランプ減税(Tax Cuts and Jobs Act)」は、富裕層や大企業を優遇した政策として批判されることが少なくありません。確かに、法人税率は35%から21%へと大幅に引き下げられました。この恩恵を最も受けたのが大企業であったことは事実です。
一方で、個人所得税についても標準控除額の拡大や税率構造の見直しが行われ、中間層にも一定の減税効果がありました。
ただし、これらの個人向け減税は期限付きであるのに対し、法人税率の引き下げは恒久措置とされた点が、大きな批判を招いています。
「富裕層優遇」という言葉が覆い隠すもの
富裕層優遇論が語られる際、しばしば見落とされるのが「資本移動」という視点です。
アメリカは、富裕層や大企業が国外に流出することを強く警戒しています。法人税率の引き下げや投資優遇策は、単なる富裕層への配慮ではなく、「国内に資本と雇用をとどめる」ための政策でもあります。
テスラ社がアメリカ国内に巨大工場を建設し、雇用を創出している背景にも、こうした政策判断があります。
「不公平感」とどう向き合うべきか
それでも、一般の人々から見れば、「富裕層は税制を駆使して負担を軽くしている」という印象が残るのは事実です。
重要なのは、違法な脱税と、制度上認められた節税を混同しないことです。マスク氏やテスラ社の事例は、制度の抜け穴というよりも、アメリカ税制そのものが「投資と成長を促す設計」になっていることを示しています。
奥村眞吾
税理士法人奥村会計事務所 代表

