米国の富裕層にとって、年末は単なるホリデーシーズンではありません。子どもや孫への現金贈与、教育資金プラン(529プラン)への拠出、信託を活用した資産移転など、「年間非課税枠」を最大限に使い切る重要なタイミングでもあります。背景には、日本とは桁違いの贈与・相続税の非課税制度があります。さらに、トランプ政権の税制改革によって相続税基礎控除額の拡大方針も示され、富裕層の資産承継戦略は新たな局面を迎えています。アメリカ富裕層に根付く“年末贈与文化”の実態を読み解きます。本稿では2026年4月末に刊行した『トランプ劇場と超富裕層課税 増税か、減税か――税制が映し出すアメリカの真実』から一部を抜粋して、米国の富裕層の年末贈与の仕組みについて解説します。

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トランプ劇場と超富裕層課税 増税か、減税か――税制が映し出すアメリカの真実
奥村眞吾(著)+ゴールドオンライン(編集)

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年末に行われる富裕層の“恒例行事”

アメリカの富裕層には、毎年12月になると欠かさず行われる“恒例行事”があります。

 

それが「家族への年末贈与」です。小切手を郵送したり、クリスマスギフトに現金を忍ばせたりするだけでなく、子どもの教育資金プラン(529プラン)や信託(トラスト)を活用するケースも少なくありません。こうした贈与は、単なるプレゼントや季節のイベントではなく、年間非課税枠を最大限に活用した資産承継の戦略です。

 

日本でも親から子への贈与制度はありますが、日本の贈与税の年間110万円の非課税枠では、富裕層の資産承継としては規模が小さく、アメリカとは桁違いの差があります。

 

では、アメリカではどのように年末贈与が行われ、どのような税制上のメリットがあるのでしょうか。

 

年末が近づくと、アメリカの富裕層は小切手や現金をクリスマスギフトに添えたり、子どもの教育資金プランや信託に資金を移したりします。教育資金専用の貯蓄制度である529プランは、運用益が非課税であり、贈与税の非課税枠を活用することで、将来の学費負担を軽減することができます。

 

信託は、資産を受益者に移転しつつ管理や使途を柔軟に設計できるため、相続リスクの軽減や資産承継計画の安定化にも寄与します。このように年末贈与は、富裕層にとって年間の非課税枠を効率的に使い切る実務的な行為として定着しています。

非課税枠の桁違いの大きさ

2025年時点での年間贈与税非課税枠は、1人あたり約1万9,000ドルであり、夫婦で活用すれば子ども1人につき年間約3万8,000ドルまで非課税で贈与できます。さらに、贈与と相続を通じた累積非課税枠は約1,339万ドルに達しており、富裕層は一生涯にわたりこの範囲内であれば、税負担をほとんど意識せずに資産を移転することが可能です。

 

高額資産を一度に相続させると、評価額の変動や制度改正リスクが伴います。そのため、毎年少しずつ贈与を行うことで将来の資産増加分も含めて受贈者に移転し、結果的に相続財産を圧縮することができます。

相続税制度の背景と大幅非課税枠の変遷

アメリカの相続税制度は、日本と比べても圧倒的に大きな非課税枠が設定されています。

 

2009年の非課税枠は350万ドルで最高税率は45%でしたが、2017年の「トランプ減税(Tax Cuts and Jobs Act:TCJA)」によって大幅に引き上げられました。未婚者で1,158万ドル、既婚者で2,316万ドルがそれぞれ非課税となり、最高税率も40%に引き下げられました。その後、基礎控除額はインフレ率とともに増加しています。

 

こうした大幅な非課税枠の拡大により、実際に相続税申告書を提出する人はごく一部に限られ、相続税は富裕層にとってほとんど縁のないものとなっています。Tax Policy Centerの調査によれば、2001年には約5万5,000件あった相続税申告書の提出件数は、2018年にはわずか1,900件まで減少しています。

タイムリミットが迫る非課税枠

富裕層は現在も年末になると欠かさず贈与を行う最大の理由は、現在の高額な非課税枠が恒久的な制度ではなく、時限的に拡大されている措置であるためです。現行制度では、2026年以降、非課税枠は縮小され、おおむね500万ドル前後(インフレ調整後)の水準に戻ると見込まれています。

 

このため、多くの富裕層は「贈与は早いほど有利」という考えのもと、毎年の贈与を着実に積み重ねています。特に年末は、その年の非課税枠を使い切るタイミングとして位置づけられています。

 

もっとも、今後の税制は政治状況によって変更される可能性もあり、現行の優遇措置が延長されるとの見方も一部には存在します。

 

いずれにしても、現行制度のもとでは、生前贈与は富裕層にとって有効な資産移転手段のひとつであり、今後も活用が続くと考えられます。

贈与は節税だけでなく家族支援

年末贈与は節税手段であると同時に、子どもや孫の教育費、生活費、医療費などを支援する役割も担います。富裕層は、贈与を通じて相続税対策と家族支援を同時に実現しているのです。日本の年間非課税枠(110万円)と比べると、アメリカの制度は規模も自由度も圧倒的に大きく、夫婦での活用や信託・教育資金プランとの組み合わせによって、長期的に家族全体の資産を着実に増やしつつ、相続税リスクを最小限に抑えることができます。

贈与を成功させるための実務ポイント

富裕層は、年間非課税枠を超える贈与の場合、贈与税申告書(Form 709)の提出を行い、贈与の方法によって非課税枠が適用されないケースにも注意しています。制度変更のリスクも踏まえ、税務・法務の専門家と連携しながら計画的に贈与を実施することが、成功の秘訣となります。

 

アメリカ富裕層にとって、年末の贈与は単なる季節行事ではなく、財産を計画的に次世代へ移転する「贈与の儀式」です。非課税枠を最大限に活用し、累積非課税枠の恩恵を受けながら、静かに、そして着実に財産と想いを次世代へ引き継ぐ。この実務的な習慣は、今後もアメリカの富裕層に根付いていくでしょう。

 

このほどトランプ政権が打ち出した税制改革では2026年の相続税基礎控除額は1,500万ドルとなり、既婚者の場合はその倍となり、アメリカ富裕層では「さすがトランプ」となっています。

 

奥村眞吾
税理士法人奥村会計事務所 代表

 

 

※本連載は、ゴールドオンライン新書で刊行された書籍から一部を抜粋・再編集したものです。

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