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トランプ劇場と超富裕層課税 増税か、減税か――税制が映し出すアメリカの真実
奥村眞吾(著)+ゴールドオンライン(編集)
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日本人はなぜ「税金」に無関心なのか
――米国人は日本人と比べて、税金への意識が高いとよく言われます。
奥村眞吾氏 「日本は『税金はお金持ちの問題』という感覚が非常に強い社会です。普通のサラリーマンは年末調整で税務処理が完結してしまうため、自分が一年間でどれだけ所得税や住民税を払っているかを把握していない人がほとんどです。
住宅ローン控除の額は気にしても、全体としてどれだけ税負担をしているかを知らない。これは世界的に見るとかなり特殊です。
一方、米国では一般的な会社員でも毎年確定申告を行い、自分の税額を確認します。そのため税に対する感度がまったく違うのです。
結果として、日本では相続税が発生した瞬間に初めて「税金とはこれほど重いものなのか」と驚く人が多い。相続税を払う経験は一生に一度あるかないかですから、事前に学ぶ機会も少ないのです」
――海外では税金への向き合い方が違うということでしょうか。
「米国やヨーロッパでは、富裕層だけでなく一般層も含めて、毎年の資産形成と税負担を一体で考えています。
日本人は世界から『サイレンサー』と言われることがあります。国に対して異議を唱えない国民だという意味です。
消費税1つ取っても、税負担について国民的な議論が大きく盛り上がることは少ない。私はもっと多くの人が、自分の税負担を知り、税制について声を上げるべきだと思っています」
米国の超富裕層はなぜ相続税を払わないで済むのか
――米国の超富裕層はどのような税金対策を行っているのでしょうか。
「Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏や、イーロン・マスク氏、GAFA創業者たちは、日本の上場企業数千社分に匹敵するほどの資産を持っています。
しかし、彼らが亡くなった際に巨額の相続税を払うかというと、実際にはそうならないケースが多い。相続税が発生しにくいよう、事前に精巧な仕組みを整えているからです。
特に日本と大きく違うのが『非公開会社株式』の評価です。日本では非上場株でも高額評価されやすいのですが、アメリカでは市場が存在しないことを理由に、非常に低く評価される場合があります。
また、超富裕層は持株会社を設立し、その持株会社ごと承継する。そして借入金を巧みに使います。彼らは現金で資産を購入するのではなく、常にレバレッジを活用する。インフレ社会では、この手法が非常に有効なのです」
――スティーブ・ジョブズ氏の相続税問題が話題にならなかったのも、そのためでしょうか。
「その通りです。スティーブ・ジョブズ氏の死去時、『巨額の相続税が発生した』という話を聞いた人はほとんどいないでしょう。それは、相続税が発生しにくい構造が事前に整えられていたからです。
場合によっては、政府側にも『資本を国外へ逃がさない』という意識があります。そのため、超富裕層に有利な制度設計が維持されている面もあると思います」
トランプ政権で富裕層課税は変わるのか?
――トランプ政権の誕生で富裕層に影響は及ぼしますか。
「米国では、日本と異なり、連邦税と州税が完全に分離されています。
フロリダ州やワイオミング州、ネバダ州のように州所得税ゼロの州もありますが、カリフォルニア州のように高税率の州も存在します。
トランプ政権は減税路線を重視していますが、一方で州レベルでは超富裕層への追加課税も議論されています。
つまり米国は、『減税国家』でありながら、『州ごとに富裕層を奪い合う国家』でもあるのです」
――日本とは税制の発想そのものが違うということでしょうか。
「かなり違うと思います。日本では全国ほぼ一律の税制度ですが、米国は州ごとの競争が激しい。そのため、人も企業も『どこで税金を払うか』を前提に移動します。
日本では東京への一極集中が続いていますが、アメリカでは州税の差が人口分散を促す役割も果たしているのです」
寄付と信託――アメリカ型の資産防衛
――米国の富裕層が活用する「信託」とはどのようなものですか。
「米国では、非常に古典的な資産防衛策が今も有効です。
日本でも以前は、アパート建設や生前贈与が相続税対策として広く使われていました。しかし現在では税制改正によってかなり封じられつつあります。
一方、米国では信託制度が非常に柔軟です。たとえば、1億円相当の賃貸物件を信託に移し、『今後十年間の収益は慈善団体へ寄付する』という条件をつけることで、相続評価額が大きく下がることがあります」
――米国では「寄付」が大きな意味を持つということですね。
「米国では寄付が『税金の代替機能』を持っています。
マーク・ザッカーバーグ氏が巨額寄付を行っても税務上大きな問題にならないのは、寄付文化そのものが税制に組み込まれているからです。
日本では『税金は国に徴収されるもの』という感覚が強いですが、米国では『自分の意思で社会へ再分配する』という考え方が根づいています。
さらに共和党内では、『相続税そのものを廃止すべきだ』という議論も根強い。
富裕層にとっては、長期的に見れば相続税負担そのものが軽減される可能性もあるのです」

